~にじいろ旅ログ~ 素敵な旅が虹の向こう待っている! あなたの七色の旅のお手伝い☆
8月 某日
タイトル:青糸島での事件に関しまして
この度の事件で被害に遭われた方、そしてご遺族の皆様には謹んでお悔やみを申し上げます。
弊社ライターが現地取材に赴いておりましたことにより、現在多数の取材依頼や、お問い合わせを頂いております。しかしながら事件は現在もA県警による捜査の最中であり、詳細につきましては公表を差し控えたく、弊社は今後も警察と協力のもと事件の解明に努めますとともに、今後も皆様の安心な旅の一助となれるよう、よりいっそう心のこもった記事を提供していきたいと思っております。
友明出版 にじいろ旅ログ編集部
9月 某日
タイトル:無題
こんにちは、にじたび旅ライターの橙山です。
このたびはご心配をおかけして、本当にもうしわけありません。
あれから毎日のように取材の依頼や読者の方々からたくさんのお問い合わせを頂いてます。でも、ご理解ください! まだ事件は解明されてないんです。今もA県警の方々が一生懸命捜査をされてます。私たちもできる限り協力してますが、全てのことが明らかになるまでには時間が必要です。
だけど橙山のもとには「一体なにがあったの~!?」ってメールやDMがたっくさん届いています・・・
捜査を妨害するわけにはいかないので、話せることには限りがあります。でもでも、皆様のご心配の声の多さに、A県警とホテルのオーナーが相談してくださり、特別に、すこーしだけ橙山が記事を書くことを許可してもらいました。
でもでも! 事件の情報が出てくるわけじゃないですよっ!
というか、橙山も実際に島でどんなことがあったのかは、詳しく知らないのです。
事件のあった数日間は台風接近で海は大荒れ、みんな安全のために大人しくそれぞれのコテージにこもってました。だから橙山自身も「一体なにがあったの~!?」って思ってるひとりなんです。
それに、一部で話題になってる今年の春の事件、橙山は知りませんでした・・・。いや、そんな事件があったってことはたぶん見たと思います。でもそのとき橙山は「雪解け宿に春の訪れと先取りグルメ情報」の取材で山奥でした。そうです、橙山が落下してきたツララにビビってコケたアレです。なので、あらためて調べました。確かに同じオーナーさんの宿で起こった事件でした。
でも待ってください! もちろんオーナーさんが原因で起こった事件ではありません。オーナーさんに責任がある! と鼻息を荒くしているあなた、ちょっとだけ橙山におつきあいください。
橙山の旅人生にかけて、ホテル・アルテア・ブルーは本当にいい宿です。
たまたま今回はこんなすてきな宿で事件が起こってしまったけど、春の事件も素晴らしいホテルが現場になってしまったけれど、どちらもそこが「旅の宿」であったことは関係がない・・・と橙山は確信してます。橙山のパソコンには滞在中に綴ったレポの下書きがいっぱい残ってますが、どれもいつものようにポジティブな内容ばかり。
だってほんとうに最高の離島リゾートだったんですもの!
それだけは、旅ライター橙山のプライドにかけて申し上げておきます。おひとり様でも、カップルでもご夫婦でも、あるいはファミリーでも、お友だち同士でも、ゆったりと寛げて、まるで時間が止まったようなひとときを堪能できるホテルでした。
だから事件が起こったと知ったとき、われわれ宿泊客は本当に信じられない思いでいっぱいでした。なぜこんな美しくて安らげる離島リゾートで事件なんて・・・! 橙山なんか最初はドッキリだと思っていました。そういうミステリーイベントとかなのかなあ~そんなサプライズは嫌いじゃないぞっ! て思ってたくらいです。
そこからは正直、あまり記憶がなかったりもします・・・
目の前で殺人事件が起こったなんて経験、橙山にはありません。だから怖かったし、毎日眠るのもおそろしくて、起きていても何回もドアや窓の鍵を確かめてばかりでした。きっと他の宿泊客のみなさんも同じだったと思います。だから質問攻めにしないであげてくださいね。お願いしますっ!
それでね、読者のみなさまには橙山の口癖を思い出してほしいのです。
小さな宿ほど、普段切り盛りしているスタッフさんたちの個性が出る。
これ、ホテル・アルテア・ブルーでも同じです。残念なことに事件の容疑者はスタッフのひとりでしたが、オーナーさん、他のスタッフの方々、そういう人々の穏やかさがにじみ出ているホテルでした。
あ、橙山はなにも事件を正当化してるわけじゃないんですよ。容疑者をかばいたいわけでもない。というか橙山はチェックインのときにご挨拶しただけで、本人とはお話ししてないんです。動機がなんだったのかすら橙山はまだ知らされてませんし、もしかしたら今後も知ることはないのかも。
ただ、容疑者と被害者の間には怨恨があったのかも、という報道が出ています。
オーナーさんは、さまざまな過去を抱えた人たちをスタッフとして採用してました。そしてどんなお客様も歓迎しておられました。それが事件を呼んだのでは、と疑ってる人も多いようです。
橙山はこう考えます。
確かに、事件が起こってしまったことを突き詰めていくと、そういう理屈が成り立つのかもしれません。だけどそれって、オーナーさんがさまざまな過去を抱えた人たちを見捨てず、お仕事と家を与えてきた結果のひとつなんです。どんな過去がある人にも明日は来る。事件はともかく、そんなオーナーさんの前向きな考え方、橙山は間違ってるって思えません。誰にだって新しい明日はやって来るのです。
旅も同じだと思いませんか?
昨日までの自分には、つらいことや疲れることがいっぱいあった。だけどそんな自分を旅に連れ出してリフレッシュさせてあげたり、おいしいごはんを食べて幸せになったり、絶景に心を踊らせたりしたら、よーしまた明日から頑張ろうって思えてくる。
オーナーさんはこれまでも手掛けているホテルのスタッフさんたちとは出来るだけ時間を取ってお話をしたり、様子をうかがったりしてきたそうです。今回の事件を受けて、さらにホテルで働くみなさんの心のケアに取り組んでいきたいと考えているそうです。
橙山はそんなオーナーさんを応援したいって思ってます。
橙山は前向きでポジティブなことが大好きですが、新しい明日に進むためには過去が必要なんです。どんなに最悪な昨日でも、過去は消えてくれない。だけどそんな昨日があるから明日に進める。過去も未来も上下左右もなかったら、私たちは立ち止まっているしかなくて・・・それって、「無」ですよね。
そんなの生きてる人間の居場所じゃない! って橙山は思います。千里の道も一歩から、橙山は玄関を一歩出たときから旅が始まるって思ってる派なのですが、てことは、誰でも生きるという旅に出発するためには、おうちが必要でしょう? オーナーさんはそれが大事っていう考えをお持ちなのです。
だから、いつかまた青糸島は素晴らしい離島リゾートとして再出発をするでしょう。そしてたくさんのお客様を迎え、やがて島は喜びの声で満ちあふれるでしょう。その声はやがて青糸島の悲劇を吹き飛ばし、島を幸せで包んでくれるはずです。
その時はみなさま、ぜひぜひ訪れてみてくださいませね! 日の出も日没も美しいビーチ、目に痛いほどあざやかな自然、新鮮なシーフード、そして静かで優しくて穏やかな時間があなたを待っています!
橙山もこの臆病な心を奮い立たせて、また旅に出ようと思います!
これからもみなさまのすてきな旅と思い出のお手伝いが出来ますように・・・
にじいろ旅ログ ライター 橙山さくら
END