天使と悪魔

08

お互い思い合っていたと知った夜に、ふたりは「恋仲」になった。

だが、ママやドノさんに「やっぱり相手のことが好きでした!」と笑顔で言える自信がなかったふたりは、もう絶対に離れないし、心底愛し合っていると自覚したけれど、それはあくまでも気持ちの問題であって、親しい人への報告だのは当分見送ることにした。もちろん結婚もしない。

どうしても恥ずかしいのである。

ママもドノさんもヴェルデ・ビアンコの仲間も、翔陽町のありとあらゆる人々に「やっぱり好き合ってました~!」と言うことを考えると顔から火が出そうだ。無理無理、絶対無理。やっぱりそうだったんじゃないの~! 照れちゃってえ! なんて言われたらと思うと冷や汗が出る。

「でも誰も見てなければ平気! 健司、ぎゅーしてぎゅー」
「何だよ、子供返りしちゃったんじゃないのか」
「それは健司も同じでしょ、院でご飯食べようかーなんて」
「えっ、いやそれはほら、ママの賭けが」

これまでもそうだったように、日が暮れて町に明かりが灯り、食事を取ってシャワーを浴びれば、邪魔するものはなにもないふたりだけの時間である。それを数年間もそっぽ向いて過ごしたので、最近ではふたりはベッドの上で延々お喋りをして過ごすことが多くなった。

嘘をつき続けてきた数年間のこと、トラットリアで生活していた頃のこと、もっと遡って院にいた頃のこと、記憶にある限りのこれまでをなんでも拾い上げてなぞり直す。マグにいっぱいのお茶と健司のポケットに入っていたような焼き菓子が付くこともある。それを挟んで数年間を取り戻すようにふたりは喋りまくった。

今のところ「これから」についてはさほど興味はなかった。ただふたりで一緒にいられればそれでいいのだし、強いて言えばがもう少し安定した職にありつければいいというところだが、家はこのままでいいし、翔陽町を出ていきたいとも思わなかった。

いや、「これから」にはひとつだけ最大の目標がある。チャンピオンシップ出場だ。

「パールス・ゲールなんか、もう17回も出場してるんだもん。もう出なくていいよね」
「ほんとだよ。この間なんか『南第3、海町住民の誇り』とか言われてさ。オレは思ってないっての」
「あはは、だよねー! 健司だってそのくらいすごい選手なんだからさ」
「そ、そうだよな? オレだってやれるよな?」
「当たり前じゃん!」

心に重くのしかかる不安が晴れたので、ふたりはトラットリアで生活していた頃のような、天真爛漫さを取り戻していた。と健司は噴水広場に放置されていたあの夜からお互いが全て、仲もよく、他の何よりも大事にしてきた。それはこうして自然に、簡単に表せたことだった。

子供返りと言えばそうかもしれない。も健司も院やトラットリアではしゃいでいた時の感覚を思い出していたし、それは何より心が安らぐし、心も体も健やかになった気がする。

……今度こそ連れて行ってあげるから」
「一緒に行こうね。チャンピオンシップでも優勝しよう」
「そしたら、勝ったら何かしてくれる?」
「いいよ。勝ったら何でも言うこと聞いてあげる」

しかしいくら子供返りしても、もう子供ではない。健司はの体にするりと腕を巻きつけ、ほんの少し開いていた唇に食いつく。少し位置がずれ始めた月明かりがベッドに差し込み、窓枠の影を落としている。

シャワーを浴びたらベッドの上でたくさんお喋り。それは子供の頃からずっとしてきたことだ。けれどもう子供ではないし、ふたりは恋仲だし、最後はこうして愛し合い、そしてやっと眠りにつくのだ。手を繋ぎ、あるいは両腕両足を絡ませたまま、朝まで。

そういう平穏な日々がどれくらい続いただろうか。

恥ずかしいあまり、ふたりの関係が変わったことは絶対に外には漏らさないとしていたけれど、だいぶ恥ずかしさが取れてきた。というかせめてママとドノさんには言わないとマズいんじゃないだろうかというある種の責任感で揺れ動くようになっていた。そんな頃のことである。

前回突然深夜にやってきてと健司の心を騒がせた張本人である花形は、気付いた時には1ヶ月ほど顔を見せていなかった。元々少し離れた町の住民設定だし、本人はアンブローシアでも十分練習はできると言っていたし、1ヶ月くらい顔を見せないのはこれが初めてではなかったから、誰も心配はしていなかった。

だが、それが2ヶ月になると、ヴェルデ・ビアンコのメンバーが不審がりだした。いくらチームのナンバー2だからって、2ヶ月も練習来ないんじゃ団体競技の選手として問題あるんじゃないのか。

それももっともなので、健司は本人に教えられたとおりに花形に直接連絡が取れる手段でメッセージを送ってみた。もしどうしてもこっちに来られない理由があるなら怪我して寝てる写真でも偽造して送れ、と付け加えて送った。だが、いくら待っても反応はなかった。

チームメンバーたちはますます花形を不審がるし、しかし適当なでっち上げをしてしまって後で自分の首を絞めることになっても困る。をどうしてもチャンピオンシップに連れていかなければならない。健司は仕方なく「元々翔陽町の人間じゃないんだし、病気してるのかもしれないし、放っとこう」と宥めて収めた。

そうして花形が翔陽町に現れなくなって、実に4ヶ月が過ぎた。

やっぱり外ではドライな関係のままの振りをしていたと健司が夕食を終えて、雑用のついでに降りた工房でスイッチが入ってしまい、いつものようにイチャイチャしていたときのことである。このボロビルの近所は住民が少ないので、ふたりは憚ることなくキャッキャと笑い合っていたのだが、突然ガレージのシャッターを激しく叩かれて悲鳴を上げた。

時間はそろそろ深夜になろうかというところ。噴水広場ならともかく、外縁地区の中でもさらに外れに位置する翔陽町ではかえってひと気がなくて、人通りも殆どない。健司はを背後に庇うと、工具の中に紛れていた武器としても使えてしまうものを手にした。

そしてシャッターにそろそろと近付いていった。も少し離れて溶接機を構える。

……誰だ」
「藤真か!? オレだ、開けてくれ! 上に行ったらいなかったから!」
……花形か!?」

急いでスコープを覗いた健司は声の主が花形であると確認すると、急いでシャッターを開けた。駆け寄るが心配した声を上げると、花形は慌ててシーッと唇に人差し指を立てて工房に転がり込んできた。やけに大荷物で、外縁地区では珍しいホバーリフトまで引っ張っていた。一体何なんだ。

「急にすまん、連絡できなくてすまん、ふたりとも少し時間くれないか」
「落ち着け、何をそんなに慌ててるんだよ」
「とにかく上に行こう、花形、顔色悪いよ」

いつも淡々としている花形がやけに焦っているので、と健司は荷物を一緒に持ってやって階段を上がっていった。最近ではの部屋であったところでふたりで寝ているけれど、健司の部屋はそのまま残してある。一見して室内は変化なし、いきなり驚かれることはない。

健司が荷物を引き上げている間にはまた飲み物と軽食を用意する。

……藤真、モニタ用意してくれ。出来るだけ新しいやつ。あとテロメックスあるか」
「テロメックス!? 何言ってんだお前、何する気だよ」
「ゼロじゃないんだろ、少しはあるだろ。上手くいけば後で補填するからあるだけ貸してくれ」
「花形、一体何なんだよ4ヶ月も連絡取れなくてそれで――
「あと出力の高い電源、ここの家ってどのくらいまで耐えられるんだ」
「おい、聞けよ」

花形は健司の言葉に耳も貸さずにあれこれと用意してくれと言って聞かない。仕方なく工房から花形の指示するものに合うものを持ってきた。一応ないことになっている「テロメックス」も。例の生体接続に必要な有機素材である。流通が止められる前に手に入れたものだが、工房の奥に隠してあった。

「健司、どうなってんの……
「いや、よくわからん」

健司が様々なパーツを渡すと、花形は大荷物の中からひと抱えもある真っ黒な正方形の筐体を取り出し、あれこれと接続していく。そして最後に健司のへそくり状態のテロメックスを使って外縁地区では見られないシート状のポインティングデバイスを繋げると、深呼吸をしてふたりを振り返った。

……指輪の意味がわかったんだ」
……花形、オレはアンブローシアとは関わりたくないって言ったはずだぞ」
「たぶん、お前たちが噴水広場に捨てられてた理由もわかる」

花形は健司の言葉には答えず、俯き気味にぼそぼそと続ける。

……この間のデータパックの件から色々気になって嗅ぎ回ってたことがバレたんだ。だけどそれはまだお前たちと繋がることじゃないから平気。だけどこれを奪われる前になんとかしたかったんだ」
「これって、その古臭いコンピュータみたいな箱か?」
「こっち来てくれ。ここ、この隙間、何が見える」
「何がって、青緑色の……え?」

花形の両側から筐体を覗き込んだと健司は顔を上げて目を見合わせた。青緑って……

「おそらく、クシャスラの試作品から転用したコンピュータなんじゃないかと思うんだ」
……どういう意味?」
「シノウゾル16を使った、ある程度意思決定されてるAIが搭載されてるんじゃないかと」
「意思決定?」
「この筐体、ある部屋のロックに使われてたんだ。その上、絶対にロック解除を承認しない」

花形はポインティングデバイスを指でなぞりつつ、隙間を指した。

「クシャスラの計画が中止じゃなくて休止になってたのは、例の病気の件もあるけど、あの開発責任者ふたりが重要なデータを自分の研究室に閉じ込めたまま行方不明になったから――だったんだ。プロジェクトとしては開発継続のつもりだったんだろうけど、こともあろうにあの夫婦、クシャスラも治療法の方も、この筐体でロックした部屋の中に入れたままにしたんだ。部屋は破壊できなかったし、ロックは解除できない、ってんでそのまま区画ごと封鎖されてた。けど、お前らの指輪と同じ模造宝石が入ってるじゃないか」

青緑色の模造宝石自体、アンブローシアでは別段珍しいものではないと言うけれど……

「お前らの指輪がロック解除のキーだと思ったのはただの思いつきだ。でも間違ってないと思う」
「ちょっと待てなんでそんなことになってんだ」
……それはロックを解除してみればわかるんじゃないか」

花形はそれきり黙ってしまった。あとはと健司が指輪を筐体にかざせば真偽の程は確かめられる。動かなければ花形に文句を言って、だけど心の中では心底ホッとして終わり、それでいい。

ただ以前と違い、ふたりは不安に苛まれ続けることより、自分の心に正直になって向き合うことを選んだ。

もし筐体が起動して、その結果血の繋がりがあると知ることになっても、もう手遅れなのだ。過ぎてしまったことは変えようがない。花形が4ヶ月も連絡を絶っている間に、ふたりは恋仲になってしまったのだから。

「健司、やってみようか」
……わかった」

が指輪を取り出すと、健司も頷いて襟元に手を突っ込む。

「この隙間にかざせばいいのか?」
「たぶんな。こんな模造宝石使った認証なんて見たことない」

花形はちょっとむくれているらしいが、ふたりはそのまま指輪を筐体の側面にある隙間に近付けてみた。すると隙間の奥で光がサッと横切り、その瞬間ぐるりに通されていたパワーランプが忙しなく走り出した。

さらに筐体の上部の一部がスライドして開き、ふたつのくぼみが出てきた。と健司は指輪を下に向け、そのくぼみに模造宝石をあてがってみた。すると磁石のようにガチッとくっついてしまい、ふたりは驚いて手を離した。花形の言うとおりなら、意思決定されたAIが搭載されたコンピュータが起動したらしい。

モニタにブート画面らしきものが高速で走り、それが過ぎると飾り気のないユーザーインターフェイスの画面に落ち着いた。どうやらパスワード画面のようだが、入力フィールドは4つ。花形は迷わずと健司の名を入力した。画面が切り替わり、いくつかのファイルらしきアイコンが散らばるだけの画面になる。

「あっ、クシャスラって名前のファイルがあるよ」
「それは後でいい。ていうかクシャスラのデータには用はないんだ」
「なんでだよ、開発止まってんだろ。必要ないのか?」
「この件を嗅ぎ回ってて知ったんだけど、クシャスラの開発は反発が多いらしいんだ」
「だろうな」
「必要なのは、こっちじゃないのか」

花形が指したアイコンには、「こどもたちへ」と記されていた。と健司の顔が青くなる。

そこへ来て花形は突然ポインティングデバイスを投げ出し、ソファに背を沈めてため息をついた。

「先に話しておこうか」
……何をだよ」
「どうにもアンブローシアで社会的地位がありすぎるあの夫婦が行方不明ってのが気になって」

花形はの淹れてくれたコーヒーを啜り、焼き菓子を口に詰め込む。

「そもそもアンブローシアでは犯罪がものすごく少ないんだよ。窃盗のたぐいはもちろん、詐欺とか、他人のものを奪わなくても、アンブローシアでは生きていくのに困らないから。あるとすれば人間同士の諍いからの傷害とかそんなところで、だけど監視システムが細かいから検挙率は高いし、ええとだから、例えそれが自分の意志でも、アンブローシアで行方をくらますっていうのは、ものすごく難しいことなんだよ」

それは想像に難くない。と健司はうんうんと頷く。外縁地区に比べたらアンブローシアは狭いし、厳重なセキュリティを敷いて外縁地区との接触は最小限にとどめているし、安全を重視する方針から花形の言うように「隠れる」ということがとても難しい造りになっている。

「あるとすれば外縁地区へ出たか。だけどあの夫婦が外縁地区に出奔する理由が見当たらない。出来る限りの記録を調べたけど、夫婦仲も悪くないみたいだし、とにかくクシャスラも奇病の治療法も、どっちも中途半端なままだったんだ。特に女性の方は自分の研究にはしっかり結論を出すタイプだっていうのに、このふたつの件に関してだけ、放置のまま何の指示も残さずに忽然と消えた」

それはどちらかと言うと自らの意志で消えたというよりは……という顔をしたと健司に、花形は頷く。

「オレもそっちを疑ったんだけど、今も残る彼らを知る世代のドクターなんかに話を向けてみても、どこの開発チームに行っても慕われる人格者だったようなんだ。研究熱心で向上心もあり、これは主にクシャスラの方の記録だけど、都市管理AIへの反発についても結構強固な姿勢で持論を展開してて、マズいことやらかして消されたとか、そういうのもちょっと考えにくい」

例えば反発している勢力があったとして、しかし何しろ場所はアンブローシアである。開発責任者をブッ殺せば中止になるぜ! という安直な考えを起こすような人物はいないだろうし、もしそういう勢力にやられたのだとしても、開発はストップしないし、データを閉じ込める理由にはならない。

「それで気になってコソコソ探ってたんだけど、その封鎖区画に入ることができたんでこの筐体を覗いてみたんだ。そしたらこの模造宝石だろ。これでも理系のドクターだからこういう表現は使いたくないんだけど、勘、としか言いようがない。お前らの指輪がキーだって、そこでピンと来ちゃったんだよな」

そうしたら居ても立ってもいられなくなり、花形はこの筐体を持ち出して外縁地区に飛び出てきた、というわけだ。健司の顔が青くなり、そして徐々に怒りが滲んできた。

「アンブローシアとは関わりたくないって言っただろ……そんな危険なもの、さっさと持って出て行ってくれ」
「オレが安全対策もしないで慌てて飛び出てくるわけないだろ」
「お前毎回毎回そう言うけど、ただのラボの職員じゃないか。リスクを犯してるとしか――

自分たちに関わりがあるかもしれないデータはともかく、この筐体を追ってアンブローシアの標的になるのだけは避けたい。健司の不安はもっともなので、花形は深くため息をつくと、襟元や胸ポケットに手を突っ込んでID類を取り出してテーブルの上にバラ撒いた。

「ラボの職員てのは嘘じゃない。だけど下っ端の研究助手だなんて言った覚えはないぞ」
「嘘……主任って……メインラボの責任者ってどういうこと」
「こっちはラボのデータベース。あんまり長く覗けないから早く見てくれ」
……アンブローシアセンターラボ医療部、IS研究チーム主任、兼開発責任者」

自前のデータパッドでアンブローシアセンターラボのサーバーに侵入したらしく、健司に手渡されたモニタには顔写真入りの職員の略歴が表示されていた。年齢は健司たちの推定年齢と同じ。ふたりは呆気にとられて、親しい友人であるはずの花形の横顔をまじまじと見つめた。

「アンブローシアの誰ひとりとしてオレが外縁地区のバスケットチームの一員だなんて、知らないぞ。それでもう何年経ってる? ラボを空けて何日もここで過ごすことも、今に始まったことじゃない。だけどここに防護服で武器携帯の当局職員が一度でも来たか?」

と健司が知る限り、この十数年、翔陽町にゲート職員が入り込んできたことは一度もない。よっぽどのことがない限り彼らは外縁地区の生活エリアには近寄りたがらないし、クリーンな生活をしている彼らにとって外縁地区は汚すぎる。以前が感じたように、花形が少し異常なのだ。

「お前らが外縁地区も出てどこか遠くの町にでも旅をするってんならともかく、将来的にも事実は知っておいた方がいいだろうっていう判断でこれを持ってきた。だけど何も知らないままここでひっそりと生きていくっていうならそれもいいだろう。そうならそう言ってくれ。今すぐ持ち帰るよ」

そっと筐体にかけた花形の手を、思わずが止めた。

「花形、嘘はもうやめない?」
「もう嘘は――
「だけど、全部話してないよね? 私たち花形のこと、どれくらい知ってるの? 本当の花形って、どこにいるの」

それには健司も同意だったようで、データパッドをソファの上に投げ出すと、花形の手を掴んで戻した。

「来年はオレたちヴェルデ・ビアンコがチャンピオンシップに行くんだ。お前がいないと困る」
「そ、そうだよ! そのためにも、ねえ、もう隠し事、やめようよ」
……まだ分かってないことも多いんだ。これ、見ないか」

友人ふたりに手を取られた花形はまたため息を付き、そして「こどもたちへ」と記されたアイコンを指した。

「オレが立ててる仮説が正しければ、お前たちはきょうだいじゃないし、あの研究者夫婦の子供でもないし、それに、これを見ればふたりが研究を放り出して消えた理由もわかると思うんだ」

ゆっくりと頷くふたりに頷き返すと、花形は厳しい顔をして言う。

「例の奇病の治療法の研究、受け継いでるのはオレなんだ。出来れば封鎖されてるデータも欲しい」
……わかった。見よう」

は立ち上がり、健司の隣に移動するとぴったりくっついて手を繋ぐ。この数ヶ月の間に特別な関係になってしまったことなどまだ話していないけれど、あの日噴水広場に捨てられてた者同士、あの夜のように手を繋いでいなければならない、そんな気がした。

花形がポインティングデバイスを操作して、アイコンからデータを開く。動画だった。

「記録開始します。アンブローシア暦648、第4シーズン13、夏時間で昼を過ぎたところ」

映像の中で女性が淀みなく喋りだす。あの研究者夫婦の、女性の方だった。