深夜1時の恐怖体験

それは合宿最終日前日の深夜のことだった。明日はもう帰るだけ、7日間の合宿は恙なく滞りなく終了したので、この日の夜は合宿所から歩いて10分ほどの場所にあるキャンプ場でバーベキューをやった。予めひとり500gの計算で肉を用意したけれど全く足りず、合宿所から分けてもらう羽目になるほどの大盛況。

その上合宿完遂で気が楽になった部員たちがだいぶはしゃいで遊んだので、合宿所に戻るのが遅くなってしまい、そこから風呂だの点呼だの翌日の注意点だのと雑務をこなしていたら、あっという間に日付が変わってしまった。だが、明日は朝練もないし、バスに揺られて帰るだけ。ちょっとくらい遅くなっても大丈夫。

6泊7日の合宿、疲れが残らないように気を配ってはいたけれど、それでも終わると思うとドッと疲れてくる。明日の朝はギリギリまで寝ていて、身支度だけすればいいようにしておきたい。はやっと全ての雑用が終わったので熱いシャワーで汗を流すと、窓を全開にして荷物をまとめていた。山間部の合宿所なので、夜は外の空気がひんやりしていて気持ちいい。

すると、開け放した窓から女性の悲鳴のような声が聞こえてきて、は飛び上がった。

おかしい。今この合宿所に女性は自分ひとりのはずだ。毎年利用している合宿所だが、スタッフは夜勤の数人を残して全員通勤だというし、夕食までの食堂勤務にしか女性はいなかったはず。そして合宿所の周辺はただの山、さらに森、民家はなし。女性の声が自分の口以外から出てくるはずがないのだ。

途端に体が冷たく感じてきた。窓を閉めたいが、窓に近寄るのも怖い。だが、そんなビビっていたの背後でデスクに置かれていた携帯が鳴り出した。マナーモードのままだったので携帯は木製のテーブルの上で大きな音を立て、はまた飛び上がって自分でも悲鳴を上げた。慌てて携帯を取り上げると、副部長の花形だった。

「はな、はななな花形」
「おー、悪い、今荷物まとめてんだけどさ、ミーティングの資りょ……
「花がが花形、たす、たすけて」
「はあ?」
「なんか、窓、外から、女の人の悲鳴聞こえる……! どうしよう」
「え? 風の音とかじゃなくて?」
「風なんか吹いてないよ……! ヒイッまた聞こえた……!」

風は吹いていないと言ったけれど、風というほどでもないふんわりした夜気とともに、また遠くから女性の悲鳴が聞こえてきた。はじりじりと後退り、ドアの方へ下がりつつ涙声を出した。

「わかったわかった。たぶんお前んとこにオレの資料紛れ込んでるから、そっち行くわ」
「はや、早く早く、早く来て」
「はいはい、切るぞ」

花形の部屋はの部屋の向かい側を2部屋ほど挟んだところにある。合宿所は部屋数が多いので、翔陽の大所帯を余裕で受け入れられるばかりか、それでも余ることがあるので、その年の人数によりけり、3年生は個室を使えることになっている。そのため、そもそもはマネージャーで現在紅一点なので元から個室だが、今年の3年生は全員個室。

は花形がやって来るわずか数十秒が何時間にも感じられた。どうしよう、あの窓からなにか入ってきたらどうしよう。

「おーい、大丈夫か」
「ふおお、たすけて! 窓! こわい!」
「お、落ち着けよ、入っていいんだな」

花形は一応そう確かめてから入ってきたが、は慌てて花形を引きずり込み、自分は花形のTシャツをガッチリ掴んで背中に隠れた。部内で1番大きな背中なので、隠れるにはもってこいだ。

「と言っても……ここって位置的にエントランスのすぐ脇だしなあ」
「なんか、なんかあった?」
「いや別に取り立てておかしなものは何も……

花形は網戸を引いて携帯のライトを片手に外を覗いてみるが、まあ、あるわけはない。だが、

……ん?」
「ど、どどどどどしたの」
「これは……ちょっと待ってろ」
「えっ!? ちょ、やだ、置いてかないで!」

何かに気付いた様子の花形がさっさと部屋を出ていこうとするので、は慌ててその後を追った。勘弁してくれ。待ってればいいのにという花形のTシャツをガッチリ掴んだまま廊下に飛び出ると、彼は廊下の奥を目指してどんどん進んでいき、最奥にある部屋の前で止まった。

「えっ、ここって高野の――

目を丸くするに構わず、花形はドアを強く叩くと、そのまま開いた。

「おい! 高野――――
「ぎゃあああああ!!!」
「いやあああああ!!!」

花形が怒鳴り込んだのと同時に響き渡る高野の絶叫、そしてまた女性の悲鳴、そこに重なるの悲鳴。

「ちょ、全員うるせえな」
「ふざけんな、なんだよいきなり! こんな時間にまで!!!」
……ってあー! ホラー映画じゃん!!!」

そう、悲鳴の正体は高野が見ていたホラー映画の音声だった。同様、窓が少し開いている。

「ホラー部で見ようと思って持ってきたんだけど、結局そんな時間なくてな」
「どうせ明日は帰るだけだし暇だし見ちゃおうかなと思った、と」
「てかそれが何だよ、別にいいだろ」

高野の言う「ホラー部」とは、バスケット部内で数人のホラー映画好きが作った集まりである。活動内容は特にないが、ホラー映画好き同士でよく喋っている。合宿の夜、それぞれ好きな作品を持ち寄って鑑賞会をするつもりだったらしい。は気が抜けてがっくり肩を落としているので、花形が代わりに説明してやる。

「なんだよ、そんなことか。ビビりだなまったく」
「悪かったな! てかこれじゃ隣の部屋にもうるさいんじゃないの」
「えっ、そう? もうかれこれ30分くらい見てるけど苦情は来てないぞ。寝てるんじゃないのか」
、隣って誰だっけ」
「えーっと、一志じゃなかったかな」
「おいちょっと待て1番寝る時に騒音ダメなやつじゃないか」

しれっと映画を巻き戻している高野を置いて花形が出ていくので、は高野に窓を閉めろ音量を下げろと言い捨てて着いていった。長谷川も心配だ。だが、ノックをしても返事がない。花形が声をかけつつドアを開けてみると――

「えっ……
「うそ、やだ、どういうこと」

長谷川の部屋はもぬけの殻だった。荷物はデスクにひとまとめにされていて散らかってはいないが、本人だけがいない。

「ラウンジはもう明かり落ちてるし、お風呂も抜かれてるし、どこ行くっていうの」
「誰かの部屋かな」
「電話かけてみるか」

花形がその場でかけてみたら、なんとベッドの上で音が鳴り出した。が肌がけをめくると、長谷川の携帯が出てきた。

「なんかやだな、これ」
「えっ、何が?」
「靴が窓辺に揃えて置いてある」

花形の指さした先には、長谷川のローファーがきちんと揃えて置いてあった。合宿で往復チャーターバスとはいえ制服着用が決まりなので、全員スニーカーだけでなくローファーを履いてきているわけだが、それが窓辺に揃えて置かれていると驚く。は思わず「ヒッ」と喉を鳴らして窓辺に駆け寄った。

「でもここ2階だろ。よっぽど打ちどころが悪くなきゃ生きてそうな気がするけど」
「そ、そうなんだけど……ああよかった、いない」
「でも一応3年なんだし、消灯後に部屋を出るのは感心しないな」

と花形は緊急事態、そしてそんなルール違反は長谷川らしくないという点はさておき、深夜1時に部屋にいないというのは確かに看過できない。もし誰かと同室になりたければ事前に申請すればいいことだし、花形は副部長、はマネージャーとして、後輩の手前それを放置できない立場にある。

だがその時、遠くからビチョ、ベチョ、という多分に水分を含んだ重い音が聞こえてきた。そして何かを引きずるような音。思わずは花形にしがみつき、花形もの肩を抱え込んで後ずさった。今度はマジで何か心霊現象的なこと!? すると、開け放したままだったドアから、びっちょりと濡れた白っぽいものがずるりと入ってきて――

「いやあああああ!!!」
「うわあああああ!」
「ちょ、うるさ……一志!?」

見ればそのビチョビチョは長谷川であった。全身びっちょり、普段立てている髪はべったりと顔に張り付いて顔が見えず、館内用のスリッパを履いているので余計にビチョビチョと音がしていたらしい。それだけでも異様な姿で、は涙目だ。悲鳴が聞こえてからというもの気持ちがビビるばかりになってしまって、余計に恐怖感が増す。

「風呂掃除、手伝ってたんだ」
「えっ? なんで?」
「それがその、捕まっちゃって」

長谷川は遅くなってしまった点呼を終えると、時間ギリギリで風呂に駆け込んだ。そのせいで慌てていて、脱衣所に忘れ物をした。なので取りに行ってみたら、この一週間お世話になってすっかり顔なじみになってしまったスタッフが風呂じまいをしていた。そこでつい雑談に応じていたら、掃除を手伝うことになってしまったという。

「それでズブ濡れか」
「ま、水被っただけだし。マネージャーは災難だったな、お疲れ。オレもシャワー入って寝るよ」

長谷川が早くシャワーに入りたいようなので、は花形にしがみついたままそそくさと廊下に出た。

「まあ、何事もなくてよかったけどな」
「ううう、怖い思いしたの私だけ」
「ははは、ほんとに災難だったな。でももう大丈夫だろ……ってなんだよまだ震えてんのか」

種明かしがあってホッとすればもう何も怖くない! というにはだいぶ恐怖感に支配されてしまっている。は最初の悲鳴の時点ですっかり震え上がってしまっていたので、長谷川の件も重なって余計に怖い。自分の部屋の窓も廊下もドアも怖い。ていうかもう全部怖い。

「しょうがねえなあ、添い寝してやろうか?」
「お、お願いします」
「ははは……って、え!?」
「無理、こわい、ひとり無理」
……

副部長とマネージャーということで、かれこれ2年半ほど毎日のように一緒にいて気安い関係だったわけだが、こんな風に密着されると気持ちがぐらりと傾く。冗談で言ったつもりだった花形は、ついの背中に手を添えて引き寄せた。

だが、その瞬間廊下の明かりが一斉に落ちた。

もう腹に力の入った悲鳴は出なかった。は迷わず花形に抱きつき、花形もまた屈み込んでを抱き締めた。真っ暗な廊下に非常灯の赤と非常口の緑だけがぼんやりと浮かんでホラーっぽさがハンパない。今度は一体何事だ!

「しょ、消灯時間てこと……?」
「でもそんなの変だ。今1時だぞ、なんでこんな中途半端な時間に」

ふたりは抱き合ったままヨロヨロと歩いて廊下を行く。ほんの十数メートルの廊下が果てしなく長い。というか花形まで冷静さを欠いてしまい、途中で自分の部屋を通り過ぎたけれど気付かなかった。すると今度はを抱きかかえていた花形の手の中で携帯が鳴り出す。はまた驚いて飛び上がった。

「こんな時間に……
……永野だ。はい。どうした? え? よく聞こえない」
「永野?」

花形がスピーカーホンにすると、確かにずいぶん小さい声だ。

「花…………てっ」
「どうした? 今と廊下にいるんだけど、何かあったか?」
…………

声はよく聞こえないし、音声は途切れ途切れだし、埒が明かない。束の間恐怖を忘れたふたりはすぐ目の前の永野の部屋のドアをノックしてみた。返事がないので、また勝手に開けてみた。すると部屋の奥の方から絞り出すような悲鳴が聞こえてきた。

「花、形ァッ……ッ、助けてくれえっ……!」
「やだあ!!!」
「どうした永野!!!」

その今にも死にそうな声にはまた震え上がり、花形に手を引かれて部屋の中に駆け込んだ。ら――

「たっ、助けてくれっ、足が! 足が攣って!!!」
……こむら返りかよ」
「もうやだあ~」
「何がだよ! 頼む助けてくれ痛ってえ――!!!」

永野の部屋は寒いくらいにエアコンが効いていた。冷えたんだろう。9割方自業自得なわけだが、ともあれふたりは両足のふくらはぎが攣ってしまった永野の足をマッサージして宥めた。永野も痛みで涙目になっているが、も涙目だ。今夜は一体何なんだ。怖いにも程があるぞ。

「そんなことがあったのか。大変だったな。廊下は風呂掃除終わったから消えたんじゃないか?」
……ああ、そうか。さっきまで一志手伝ってたんだしな」
「そういえば朝6時の時点では電気ついてないもんね。こんな時間に消灯だったのかあ」
「この分じゃ藤真も何かやらかすんじゃないのか」
「ちょ、勘弁して、もうやだこんな怖いの」
「すまん、オレも一緒にいてやりたいけど足が痛くて」

永野は申し訳なさそうだったが、それは仕方ない。は花形に促されてとぼとぼと廊下に出た。落ち着いて見てみれば、廊下を行った先のロビーには自販機の明かりが見えるし、階段の明かりは消えていないようだし、怖い気持ちはまだ全然残っているのだが、それよりも緊張続きで疲れてきた。そして眠い。

「まったくもう……最終日の夜くらい静かに寝かせて欲しいよね」
「明日は帰るだけだし、みんな気が緩んでるよな」
「それはいいんだけど、疲れた」
…………まだ怖いか?」

自分たちの部屋を通り過ぎて来てしまったのでまたとぼとぼと戻る途中、花形はついそう言いながらの背に手を添えた。もう震えてはいないけれど、ちょっとグラついてしまった花形の心はそのままだ。も足を止めた。

……うん。まだちょっと」
「ひとりで、寝られるか?」

暗くて静かな廊下、さっきまで怖くてしょうがなかったけれど、は恐怖よりも心地よい緊張の方が勝ってきて、少しだけ体が熱くなってきた。正直言えば怖さはほとんど残っていない。ほんの少し記憶の中にこびりついているだけ。それよりも、突然降って湧いたドキドキする胸の方が気持ちいいし、花形の言葉に頷きたくなかった。

「寝られないって言ったら、一緒にいてくれるの……?」
……

それは返事の代わり、そしてなりの答えでもあった。

合宿最終日、明日は帰るだけ、たち3年生にとっては高校最後の合宿。気持ちが緩むのはと花形も同じだ。その言葉に花形は一歩足を進め、そっとを抱き寄せた。の部屋のドアはすぐ目の前、そこに入ってしまえば、もう誰も見ていない。明日は練習がないので7時に食堂に集合できればそれでよし。花形が早い時間に朝帰りすれば何も問題はない。

だが、そんなふたりの向こうで、の部屋のドアがキィーッと開いた。

その音にまた驚いたふたりが身を寄せ合い音のした方を見ると、の部屋のドアの辺りにぼうっと明かりが灯った。

~た~す~け~て~」
「ぎゃああああああああ!!!!!!」

そこには真っ赤な口をした猫背の男が立っていて、下から照らされた明かりでホラー顔になっていた。と花形はもうなりふり構わず腹から悲鳴を上げた。すると、その音を聞きつけて足が痛い永野が飛び出てきた。足を引きずっている。

「おいどうし――お前藤真か?」
「ながの~たすけてえ~」
「なっ、なんなの!? なんで藤真が私の部屋から出てくんの!? いい加減にして!!!」
「だっていなかったから~腹痛いんだよ~たすけて~」

もうは完全に泣いていた。そのに肩をどつかれた藤真は、なんでも夕食の後に売店の前を通りかかったのだそうな。すると、スタッフの女性が「みんなたくさん食べるかと思ったからいっぱい仕入れたんだけど、思ったより売れなかった」と言って、かき氷を5つプレゼントしてくれたのだという。

「それを全部食ったのかよ」
「そう」
「全部イチゴ味だったわけね」
「飯のあと、風呂の後、さっきもテレビ見ながらつい食っちゃって」

いきなりかき氷を5つも食べたので胃が悲鳴を上げたらしく、キリキリと痛む腹を抱えてマネージャーに助けを求めてやって来たのだが、その時マネージャーは永野の部屋で彼の足をマッサージしていた。藤真は涙目だが、誰も慰めてくれない。

胃薬をもらった藤真はお湯を飲めと言われて送り出された。そこに眠そうに欠伸をした高野も出てきた。

「藤真も何かやったのかよ」
「別に悪さしたわけじゃないぞ」
「ふぁ~もう寝ようぜ。一志起きちゃうぞ」
「まったくだ。明日寝坊するなよ」

しかしこんな騒ぎもいつか楽しい思い出となろう。5人はちょっとだけ笑いながら解散した。だが、は花形のTシャツを引っ張って引き止めた。またしんと静まり返った廊下に自分の心臓のドキドキいう音だけが響く。

「は、花形、確か、ミーティングの資料って」
「あ、ああ、そうだったな」

そしてふたりでの部屋に入る。がミーティングの資料を引っ張り出している間に、開いたままになっている窓を閉めた花形はゆっくりと深呼吸をして振り返った。

……ええと、添い寝、いる?」

デスクの上に資料を置いたも深呼吸をして顔を上げると、小さく頷いた。

「よ、よかったら、お願いします……

花形は部屋の明かりを落とすと、ベッドサイドの明かりが優しく灯るベッドの上に腰を下ろしての腕を引いた。恐怖のドキドキはもう完全にどこかへ消えている。その代わり、ぎゅっと胸が疼くドキドキでいっぱいになる。腕を引かれたは花形の胸に倒れ込むと、ゆったりと抱きついた。

「朝まで、一緒にいてくれるの?」
「朝までじゃなくても、いいけど」
「じゃあ、いつまで?」
……いつまででも」

静かに重なる唇、ふたりはそのままベッドに倒れ込み、やがて疲れて眠りに落ちるまで寄り添っていた。

翌朝、花形は6時半頃に部屋に戻り、ふたりは何事もなかったような顔をして食堂にやって来た。昨日の騒ぎが嘘のようにのんびりとした最後の朝、一週間お世話になった施設のスタッフの方々に挨拶をすると、エントランスの前にバスが滑り込んできた。全員制服になっていて、いよいよ合宿は終わりである。

荷物の積み込みに時間がかかるので、エントランスで待っていた3年生スタメンは大あくびをしていた。

「お湯飲んで楽になったけど、その代わり2回もトイレに起きる羽目になって」
「足が攣るかと思うとエアコン強く出来なくて、それで寝苦しくて熟睡できなかった」
「ホラー映画は好きなのにホラーな夢ってなんであんなに怖いんだろうな」

お騒がせ3人が大あくびをしている横でこっそり手を繋いでいたと花形は照れ笑いである。こっちはすぐに寝てしまったけれど、それでもシングルベッドの上で朝までくっついて寝ていた。寝る前にも起きてからも何度もチューしてしまった。するとそこに今日はちゃんと髪がツンと立っている長谷川がやって来た。

「なんだ、全員夜更かししてたのか? 今日はちゃんと寝ろよ」
「えー、お前だって起きてたじゃん」
の悲鳴聞いても起きてこなかったけどな」
「うるさいのダメなくせに熟睡だったのかよ」

呆れた長谷川の顔に藤真と高野と永野が言い返していると、長谷川の首がひょいと傾いた。

の悲鳴? 何かあったのか

山間部の涼やかな朝の風がエントランスにサッと吹き込む。

「え? だからお前スタッフの人手伝って風呂掃除」
「なんでオレが風呂掃除手伝うんだよ」
「それでびしょびしょになって帰ってきたでしょ」
「だから何の話だ」

花形とに突っ込まれても長谷川は怪訝そうな顔をしたまま。の顔がサーッと青くなる。

「ちょ、ちょっと待って、かかか、一志の部屋って、どこだったっけ?」

意味のわかった花形と、隣は長谷川の部屋だと信じ込んでいた高野がすくみ上がる。

「どこって、3階の……

言うなり、エントランスにと花形と高野の絶叫がこだました。

翌年から翔陽男子バスケットボール部の夏季合宿は、場所が変更になったという。

END