ぼくのかわいいひと

8

「マネージャーとして入部してきたのは5人、みんなの友達だ。仲良くなった子同士で軽い気持ちで入ってきた。基本的に動機は不純、彼氏欲しさだ。もそう。運動部のマネージャーやって彼氏が選手ってよくない? って言われて何も考えずにワーイ! って勢いで入ってきた。そこは普通にバカだ」

藤真が中学で主将として新たな1年を始めた頃の話だ。1学年という短くて途方もなく遠い時間が胸を抉る。

「だけど練習がキツくてすぐにふたり脱落。予選が終わった頃にテストの結果がひどすぎてもうひとり脱落。インターハイ帰ってきてから体調不良でもうひとり脱落。はまだかろうじて無事だったけど、練習休みの間は起き上がれなかったらしい。体重もガタガタに落ちて、吐きながら食べてたって話だ」

それだけ聞くと翔陽バスケット部の1年生あるあるに聞こえるが、仮にもマネージャーである。大地先輩はしかめっ面で腕を組み、憎々しげにため息を挟みながら話している。

「だからが辞めたいって言い出したのも、当然のことだった」
……だけど皆さんが引き止めたんでしょう」
「ひとりでもいれば監督も助かるし、部はスムーズに回るからな。辞めると言われてみんな焦った」

今辞められてしまったら困る。また冬に海南との再戦を控えているというのに、いきなりマネージャーがいなくなってしまったら、この大所帯のバスケット部は管理しきれない。退部はあっても、途中入部というケースがないに等しい翔陽ではマネージャーの追加募集よりもを引き止める方を選んだ。

顧問や教頭も3年間無事に務め上げてくれたら内申に色を付けられると甘い言葉を囁いたし、この時の3年生はそれはもうをおだてて何とか部に残ってほしいと懇願したという。

は、中学時代、全然モテなかったらしい。一番仲のいい子がものすごい美少女で、友達としてその子とは仲が良かったけれど、周囲にずっと比較されて引き立て役にされてきたって言ってた。そんなだから、みんなに『君にここにいて欲しい』って言われて、本当に嬉しかったって、喜んでた」

しかしそれは当然のパーソナリティが欲しかったわけではない。監督の補助を努め、部内のマネジメントをしっかりこなしてくれる人材が欲しかっただけだ。だが、それでは繋ぎとめられないと思ったのだろうか。

……オレは今でも去年の3年生を軽蔑してる。先輩たちはが最初、友達と一緒になって彼氏欲しさに入部してきた女の子だってことをよくわかってた。それを利用したんだ。優しくてかっこいい彼氏が欲しいなって憧れるの、言わば乙女心につけ込んで、優しくて甘い言葉で引き止めた」

吐き捨てるような大地先輩の声に、藤真は顔を上げた。確か去年の3年生って……

「その上お前みたいに異様にモテてた先輩がファンの子をコントロールして小物を巻き上げてはにスライドして、いつも頑張ってるから特別にな、なんてことを言ってた。だけど、が先生から部員から総動員で説得されて残留を決めると、ほとんどの部員が手のひらを返した。おだて続けるのも疲れるからな」

なんとなく聞きたくない話になってきたけれど、そうもいかない。藤真は居心地が悪くなってきた。

「あの通りはバカっぽいし、ミスも多いし、ミスコンにエントリされるような子でもない。だけどマネージャーとしてちゃんとやってればそんなこと関係ないはずだろ。なのに部員たちはマネージャーがゼロにならなかったことにホッとして、『残ったのがでよかった、なら誰も好きにならないから安全』と言って笑ったんだ。オレはそれを目の前で聞いてて、吐き気がしたのを覚えてる」

藤真も今吐き気がしている。いくらなんでもおかしいだろ。

「だけど今そんなこと言うやつ、いないだろ?」
……はい」
「オレが副キャプになってからはそういうの、一切許さなかったからだ」

言われてみれば、部員たちはのおっちょこちょいをからかうけれど、そんな暴言を吐いたりはしない。藤真は吐き気とともに大地先輩が善人なのか悪人なのかわからなくなってきて、頭がボーッとしてきた。

がショックを受けてるのはわかったから、練習が終わったあとに話をしたんだ。はずっと泣いてた。当然だ。誰が好きでも好きでなくても、という人間全てを否定されたのと同じだからな。それがわかるだけにオレもつらくて、何度か話をするうちに、オレの家の話をしたんだ」

恋はない。愛もない。だけど避けて通れない自分の将来におけるパートナー探し、なら年寄りになっても仲良くやっていけるような気がしたのだ。

「お互いどう転んでも親友ってくらいだけど、もしがこの結婚に頷いてくれたらオレは一生見捨てたりしないし、金もあるから、子供だけなんとかなればあとは楽しく暮らせると思うって話をしたら、頷いてくれたんだ」

ふう、と一呼吸挟んで大地先輩はいつもの優しい表情に戻る。

「藤真、の行動原理が何か、わかるか?」
「行動原理、ですか」
「あいつはただ『誰かに必要とされたい』んだ。愛されたいんだよ」

静かな部屋に大地先輩の声が吸い込まれていく。

「その辺の上昇志向の強い女子に聞かれたら鼻で笑われそうな話だけど、それでもは自分が必要とされてて、それでみんなが喜んでくれるならっていうのが基本になってる人間なんだ。それは別に責められるようなことじゃない。心ない言葉をぶつけられてもは自分が役に立つなら、と今でも頑張ってる。体力的にずっとギリギリで、そのせいで勉強も追いつかなくて、は無理をしてる。だけどがいることでうちの部はスムーズに回ってる。それは事実だ。はそれを拠り所に頑張ってる。だからオレはに感謝してるし、恋愛感情はなくてもあいつと結婚してもいいと思ってる。一生必要としてやれる自信があるからな」

だからバッグも買い与えたしランチにも連れていくし、出来るだけ密に話し合って部を取りまとめ、大地先輩が気になることであれば何でもへ伝えて、そうやって気を配ってきたのだ。

「お前みたいに熱烈な愛情なんてないけど、例えて言うならオレたちは同志というか、協力しあって尊敬しあって生きていけるパートナーになれると思うんだ。愛だの絆だの言いながら大騒ぎして結婚して数年で憎み合い始める夫婦よりいい関係だと思わないか?」

藤真は混乱してきた。なんだかいい話のように聞こえてきたけど、小さな棘がちくちくと刺さったまま抜けないので気持ちが悪い。頭をフル回転させて考える。いい話に聞こえるけどなんかそれおかしくないか?

……つまり、先輩もそういうの弱みに付け込んでるんですよね?」

愛され人に必要とされたいという心を利用して自分の結婚にを巻き込んでいるじゃないか。だが、大地先輩はにっこり微笑んで首を傾げる。

「そうかな? オレは強制してないよ。がお前の方がいいと言えばそれで白紙だ」
「だけどそう言えないように仕向けて――
「事実無根の言いがかりだな。がお前を振り払おうとしたのはお前のせいだ」
「何で!」
「何で? お前、一度でもに好きだよって言ってやったことあるのか?」

つい敬語も忘れて声を上げた藤真はぺしゃりと潰れた。だってそれは……

「体に触っても怒らないからきっと自分に気がある、だから大丈夫だと思ってたんじゃないだろうな。それストーカーの理屈じゃないか。お前、自分が好きなだけで、がどんな風に思ってるのか、が何を望んでいるのかなんて考えたことないだろ。いつでもくっついてキスしていい関係になりたかっただけだろ。それが恋だと思ってたんじゃないのか。女に欲情してるのと恋を混同してたんじゃないのか」
「違う!!!」
「じゃあなんで誠心誠意君が好きだって言わなかった。付き合ってる振りなんかで逃げて、を惑わせた」
「それは、オレは年下で!」
「つまりフラれるのが怖かったからだろ。自分がつらい思いをするから、逃げたんだろ」

何を言っても道を塞がれる。ぐったりと肩を落とした藤真はそれでもが好きなんだと心の中で繰り返していた。先輩がなんと言おうと、もうずっとが好きで、他の女の子なんか目に入らなくて、がにこにこしている、それが可愛くて、それが幸せで、それが恋じゃなかったらなんだって言うんだよ。

てか一生なんて軽々しく言ってんじゃねえよ、オレたちまだ10代でこの先何年生きるかもわかんないのに、もしかしたら100歳とかになっちゃうかもしれないのに、一生なんて甘い言葉でを惑わせたのはあんたの方じゃないか。はあんたの道具じゃない。

喘ぐように抵抗を試みる藤真に容赦のないツッコミを繰り返していた先輩だったが、藤真がぐったりとしてしまったところでまた優しい声色に戻った。

「お前にこんな話をしたのは、もう女子マネージャーにみたいな思いをしてほしくないからだ。さっきも言ったけど、今年は去年ほどひどい状態じゃない、それはオレがずっと監視してるからだ。逆に去年は先輩たちが揃ってああいうひどいことを率先してやってた。群衆ってのは簡単に洗脳されるんだよ。洗脳なんて言葉、大袈裟だと思うだろ。だけど現状そういう状態だし、リーダーの判断が集団の性質を決めると見られるのはそのせいだ。お前にはあんなひどい翔陽を作ってほしくない」

それはわかる。おそらくここまでキツい話を聞かされなくても去年の先輩たちのようなことはしなかっただろうと思うが、新たにマネージャーが入ってきても気を配ってやれる気がする。だから大地先輩は慕われるんだよな……と考えたところでの件がどこかに飛んでいると気付いた。同じ話のようで全然違うけど?

「キツい話して悪かったな」
「いえ……
「だけど藤真、オレはお前が海南を倒してくれるんじゃないかって夢見てるんだよ」
……は?」
「お前にはいいリーダーになって欲しい。だから全部話すことにしたんだ」

のろのろと顔を上げた藤真の向かい側で、先輩は穏やかに微笑んでいる。

「キツい思いさせたお詫びに、いいこと教えてやろう」
「はあ」
「お前さっき初日に一目惚れしたって言ってたよな?」
「ええまあ……
「その日、ミーティングのあとでがぼんやりしてるから、大丈夫かって声かけたんだ」

穏やかな微笑みがなんだかちょっとニヤニヤしはじめた先輩は咳払いをひとつ挟んで言った。

「あいつ、挨拶の時に持ってた備品ブチ撒けたろ。で、それをお前、拾うの手伝ったろ」
……目の前でブチ撒けられたし、もっと近くで見たかったので」
「あんなかっこいい人がいるんですねえ……ってポーッとなってた」
「えっ?」

一瞬何を言われたのかわからなくて目を丸くした藤真を見た先輩はブハッと吹き出し、ベッドを下りた。そしてまだきょとんとしている藤真の腕を掴んで立ち上がらせると背を押してドアの方に追いやる。

「さあこれで全部話したぞ。オレが話したこと、が話してきたこと、今までのこと全部よーく思い出してパズルのピースは自分で嵌めろ。オレは自由登校に入るまでは退寮しないから、何か言いたいことがあればそれまでだからな。急いでまとめておけよ」

背中をバチンと叩かれた藤真はまだぼんやりしていたが、先輩はにこにこしている。

「せ、先輩……
「監督もメンタルケアにはあんまり積極的じゃないからな。部全体を見るようにしろよ」
「あの……
「お前が翔陽を作れ。お前にならみんな着いていくから、そういう翔陽を作れ」

そして返事ができない藤真を廊下にポイッと放り出した。12月の深夜、寮の廊下は氷のように冷たくて、しかし藤真はドクドクと脈打つ体が熱くて息を呑む。よろよろと自分の部屋まで戻り、そのままベッドに倒れ込む。先輩の話、これまで接してきたの全て、全部思い出せ。そして答えを導き出せ。

頭の中に、ずっとが「健司くん」と呼ぶ声がこだましていた。

寮が閉まるので27日には実家に帰らなければならないが、学校自体は28日まで開いている。一晩ほとんど寝ずに考え続けた藤真は朝になると一方的にを部室に呼び出した。そして実家に持ち帰らねばならない荷物をコインロッカーに預けると、電車に飛び乗った。

一方、呼び出されたはなんとなく不安を感じて大地先輩に泣きついたのだが、彼は自分で行って確かめろと言うだけで他には何も言ってくれなかった。渋々制服で学校に向かったは、誰もいない部室に少しだけホッとしつつ、ミーティングルームの椅子に座っていた。

待つこと10分ほどで部室のドアが開き、足音が近付いてくる。

「先輩」
「は、はい……って何!?」

がビビりながら振り返ると、ミーティングルームの入り口にパンダが立っていた。が、よく見るとパンダパーカーを羽織った藤真だった。フードを取り払うと藤真の顔が出てくる。

「ちょ、び、びっくりした、パンダがいるのかと……
「はいこれ、先輩の分」
「はい?」
「パンダパーカーですよ。先輩もどうぞ。クリスマスプレゼントです」
「お、おおお、可愛いね、ありがとう……ごめんねプレゼントなんて、あんなこと言ったから」

は緊張とパンダでおろおろして目が泳いでいる。しかし、なにもプレゼント渡すためだけに呼び出したわけではもちろんない。藤真は一歩進み出ると、パンダの手での手を取った。


「えっ!?」
「オレ、のことが好きです」
「は!?」

思わずパンダパーカーの袋を取り落としそうになったは慌てて机の上に置くと、目も耳も頬も真っ赤に染めて余計にオロオロし始めた。けれど、藤真のパンダの手を緩く握り返している。

「ていうか入部初日に初めて見た時からずっと好きです」
「ちょちょちょ、何言ってるの」
「付き合ってる振りじゃなくて、本当に付き合って欲しい」
「待って、待ってちょっと待って」
、大好きです」
「やめて!!!」

ほとんど至近距離でそう言われたは悲鳴に似た声を上げた。だけどやっぱり藤真の手は強く握り締めたままだし、やめてと言いながら彼を押し返す様子もなかった。藤真はパンダの手を伸ばしての頬に触れる。少し震えていた。

「言ったでしょ、私24になったら……
「じゃあ24になるまででもいいですよ」
「えっ、そういう意味じゃ」
「どうせ大地先輩と結婚するなら24までは誰と付き合っててもいいんでしょ」
「いやあの」
「大地先輩に取られるまでの7年間、オレにください。絶対大地先輩よりいい男になるから」
「落ち着いて、取るとか取られるとかそういう話じゃ……てか何言ってんの、振りでしょ、嘘、演技」
「オレは入部した時から本気です。……先輩も、同じでしょ」

そう囁かれたはギュッと目を瞑って体を縮めた。

「学年違うとか、オレがミスコンで優勝したとか、なんかそういうの気にしてます?」

しっかり頷かなかったけれど否定もしないので、藤真は机の上の用パンダパーカーの袋を取り上げ、バリバリ音を立ててパッケージを開いて中身を取り出し、ばさりと着せかけた。これでパンダ2匹である。

「ななな何やってんの」
「はい、これでオレたちただのパンダです。年齢もミスコンも関係なし」
「えええ」
「目の前に可愛い女の子のパンダがいるので、年頃のオスパンダが恋をしました」
「嘘お!」

あんまり強引な理屈なのでは狼狽えていたことも忘れて吹き出した。藤真パンダが両手を取って繋ぐ。

……先輩、オレ、本当に好きなんですよ」
「そ、そう、なの……
「オレじゃダメですか」

俯いてしまったパンダはややあってから小さく首を振った。それを確かめると、藤真はパンダのを引き寄せてギュッと抱き締めた。藤真が再度フードを被ったので、完全にパンダ2匹である。

「オレでいい? 彼女になってくれる?」
……うん」
、オレのこと好き?」
………………す、き」

安堵の吐息を漏らしつつ、藤真は身を引くと体を屈めて唇を寄せる。フードに隠れたの顔は真っ赤で、唇は震えていたけれど、優しく触れてくるキスにちゃんと応えた。

「最初から好きって言えなくてごめん」
……叩いてごめん」
「例の婚約、破棄してくれる?」
「うん、する」
「大地先輩に去年の話聞いた。今度はオレが守るからね」
「あ、ありがと……
「もっとチューしていい?」

微かに頷いただが、藤真がキスするより早く、自分から押し付けてきた。年頃のオスパンダは一気に興奮してしまい、の体を抱き締めたままずるずるとソファに引きずっていった。そしてどさりと崩れ落ちると、覆い被さってキスを繰り返した。静かなミーティングルームに粘着質な音だけが響く。

練習自体は休みになっているので、例えば守衛さんや先生が見回りにでも来ない限り、このバスケット部の部室には誰も入って来ない。それがわかっているので、藤真はどんどんエスカレートしていく。の制服に手をかけ、キスをしながらあちこちを撫で回していく。

「本当はどう思ってたの」
「え、その、最初からかっこいいなあとは、思ってたけど」
「そういうことじゃなくて」
「それはほら、夏祭りの時に」
「ああくそ、やっぱりすぐに好きだって言えばよかった……

まあ、何も思ってないのにべったりくっついて花火なんぞ見るわけがなかったのだ。それは仲間たちが正しいし、誰が聞いてもそう考える。ソファの上で絡み合ったままのパンダ2匹は次第に息が荒くなってきた。

、好き、大好き……

そう囁くたびにびくりと体を震わせるが可愛くて仕方ない。藤真はぼーっとする頭でシャツのボタンをひとつずつ外し、そしてパンダの両手でそっと開いてみた。すると、中からパンダが2匹出てきた。

「オフッ、パ、パンダ!!!」
「あっ、しまった! やだちょっと見ないで! 忘れて!」
「マジかパンダ2匹、てかこんなの売ってんの!?」

はパンダブラを付けていた。両の胸に可愛らしいまん丸のパンダが一匹ずつ。さすがの藤真もこれはつらい。自分が今パンダなのだということも忘れて引き笑い、の腹に顔を埋めて震えるほど笑っている。

「ちょっと、笑いすぎ!!! しょうがないでしょ、こんなことになるとは!」
「も、もしかしてパンツもパンダ」
「わ、ちょ、バカ、めくらないでよ!」
「あ、違った」

とはいえ白黒のパンツだったので、まあパンダのようなものだ。は真っ赤になってジタバタしているが、藤真は笑いながらまたキスを繰り返し、そっと左のパンダに触れてみる。パンダの作りが固くて胸の感触が伝わってこない。おのれパンダめ、潰してやる。

「うううやってもうた……
「いいじゃん、可愛いよ」
「くそ~バカにしてんな……
「してないって。ほんとに可愛い。、かわいい……
「うわ、ちょ、やめ……耳元で、しゃべらないで」

恥ずかしさで縮こまっているのくぐもった声に藤真の耳も痺れる。

「無理、かわいい、我慢できない」
「け、健司くん……
「かわいい、かわいい、だいすき」

夢中でキスを落とす藤真の頬にの指がするりと触れる。顔を上げると、潤んだ目のがパンダパーカーのフードの中で恥ずかしそうに微笑んでいた。

……健司くんも、かわいい」
「そりゃ、パンダだからね」
「パンダさん、ぎゅって、して」
……うううまじ可愛い無理」

12月の午後のミーティングルーム、誰もいない誰も来ないふたりだけの静かな空間で、パンダパーカーのふたりはこっそり愛し合った。元々そんなことのために用意されているソファではなかったけれど、以後、誰もいない隙を狙ってこそこそとパンダが2匹入り込むようになった。

翔陽に選手兼監督という名プレイヤーが誕生する、約1年前の話である。

その名プレイヤーが選手兼監督兼パンダであったかどうかの記録は――残念ながら残っていない。

END