在り方の問題、または指先の恋

5

何かというとガミガミうるさい越野だが、そもそも彼は中学2年生の夏頃に「将来何があっても白波では働かない」宣言をしており、お盆休みの間も当然白波には寄り付かなかった。

それをチャンスと見たナベさんや仙道は白波でご飯を食べたり釣りに行ったりと一年前に戻ったような付き合いをしていた。夏祭りの夜以来態度が軟化したも一緒に出かけてみたり、白波でもお喋りしながらご飯を食べてみたりと、また一瞬で白波と仙道の距離は縮まってしまった。

どうせ越野が見てないのだからいいだろうと甘く考えていたのだ。

お盆休み明け、部活に出た越野はクラブ棟で1年生の時に同じクラスだったバレー部の女子と行き会った。すると彼女は夏祭りで仙道を見かけたと言い出した。あいつ彼女いないはずだし、部活の外でまで部員とベタベタするタイプでもないし、部活関係ない友達もいるにはいるだろうけど、夏祭りなんか行くか? 越野は首を傾げた。

そして唐突にピンと来た彼は、仙道が誰と一緒にいたのか聞いてみた。返ってきた答えは「レトロな浴衣に大人っぽいまとめ髪の女の子」だった。彼女の言う「大人っぽいまとめ髪」がどんななのかと付け加えてみたところ、後ろにぴったりまとめてあって、フワフワ盛ってあるわけでもなくて、前髪とかもきっちりしてて、と言う。

越野は確信した。だ。

白波の従業員は着物でも作務衣でも髪は垂らしてはいけない決まりになっている。白波のそういったルールは基本的に座敷のためのもので、男女の別なく、正座で手をつき頭を下げた時に顔に髪がかかってはならないのである。配膳をする際に座卓の上で髪がフラフラ揺れていてはならないのである。

もちろんそうやって髪が抜け落ちたりするのを防ぐためにきっちりまとまっていれば、フワフワに盛ってあっても問題はない。だが何しろ女将を目指すにとっての「白波ヘアー」は夜会巻き。現女将も若女将もそうしているからだ。ちなみに現女将は毎日美容室で整えてくる。

浴衣がレトロでもなんでも、夜会巻きで夏祭りに繰り出す高1は珍しいことになろう。越野はバレー部の女子に礼を言って別れると、ため息とともに肩を落とした。

あんな、ちょっと敷地がでかいだけの和食屋、仙道のやつ、なんでそんなに白波が好きなんだ?

部室へ向かう間、越野は考える。

確かに最初連れて行った時、飯がうまいってものすごく喜んでた。渓流釣りならよくやってたと言ってたけど、今ではナベさんに教わった堤防釣りも大好き。だからって、そんなに白波にこだわることないだろ。飯のうまい店なんか他にもあるってのに、どうして。

だが、越野は頭の片隅をちらちらと横切る影を無視できなくて、またため息をついた。そうじゃない、飯がうまいのも人が多くてわいわいと楽しいのも自分で釣った魚を調理してもらって食べるのも、全部好きなんだろう。それはもちろん事実だ。だけど、白波にこだわる理由は別にある。

もう一度越野は確信する。だ。

もちろんそれも理解できない。幼馴染だから余計にそう感じるのかもしれないが、何でがそんなにいいんだ。他にもいい女いっぱいいるじゃん。なんなら紹介するっていうのに、いらねえって言うんだよなあいつ。

だから遠ざけたのに。にも言い聞かせて、仙道にも言い聞かせて、白波から距離を置けるようにしてたのに。こんなたった数日のお盆休みの間に全部台無しになっちまった。

改めて自分の家にも等しい白波が面倒くさい。越野を苛つかせるのはいつも白波だ。

越野は乱暴にドアを開けて部室に入る。既に何人か部員が来ていて準備をしている。「ウィース」と言いながら自分のロッカーの前に立つ。隣は仙道のロッカーだ。たぶんまだ来ていない。というか休み明け初日、時間通り来そうにない。キャプテンだけど。キャプテンなのに。

夏休みの終わり頃、いつも通り出勤してきたは、女性用のスタッフルームの前で越野が腕組みで立ちふさがっているのを見て、「あ、バレたのか」と思った。だが、もはや仙道が白波を好きなのは動かしがたい事実で、彼はまた白波に来られるようになって本当に嬉しそうだったし、ただのチームメイトの越野がなんと言おうと、止める権利などないと考えていた。

「どうしたの、珍しいね」
「お前、もう仙道に近付くな」
……私が自分から近付いていったんじゃないんだけど」
「だとしても、だ」

ため息のの腕を掴むと、越野はそのまま引きずって小さな仮眠室に押し込めた。仮眠しなければならないほど長く営業しているわけではないのだが、初代は新メニューの開発などに夢中になると家に帰るのが億劫になる人で、そのために作られた部屋だ。現在は基本的に使用されていない。

「ちょっ、痛いって!」
「あいつは、本当に天才なんだよ」
……それは聞いたよ」
「わかってない!」

越野は大きな声を出さないように気を付けつつも、語気を強めてそう言った。

「お前ら素人にはわからんかもしれないけど、本当にすごい選手なんだよ。団体競技だから、それを活かしきれないときもある、オレたちが至らないってのもある、それは認める。だけど陵南だけで終わるような選手じゃない。それに、今年は国体の代表が選抜チームになる。うちの監督も一枚噛んでるから、てことはあいつも出る」

ここで「ヒロも出るの?」と聞いてはいけないんだろう。は言葉を飲み込む。

「そしたらきっとあいつがどれだけすごい選手なのか、全国レベルの大会しか見に来ないような人たちにはすぐわかる。もう2年の夏が終わるし、間違いなくスカウトが殺到する。バスケットの強い有名大学が競ってあいつを手に入れたがる。そういう選手なんだよ。そういう、すごいヤツなんだよ」

それはわかるけれど……はしかし、反論すると面倒なので黙っている。

「だから、突き放してくれなきゃ困る」
……私が?」
「そう」
「なんで?」

反論はしないが、越野の言うことも正確に理解しておきたい。は続ける。

「私、去年の秋からずっとそうしてきたよ。ヒロも先輩にずっと言い聞かせてきたでしょ。もちろん白波の人は私も含めて誰も先輩を引き入れたりしてない。いつでも先輩は自分の意志で私に話しかけたり、この間もひとりで座敷抜け出してみたり、してる。なのに私が突き放さなきゃいけないの?」
「だからだろ。あいつがいくら言っても聞かないから、こっちから突き放してやらなきゃ」
「いくら言っても聞かないのは、先輩の本心だからなんじゃないの?」
「だとしてもこんなところに心を奪われてたらマズいだろうが」
「どうして?」
「どうしてどうしてうっせーなお前は!」

つい大きな声を出した越野は慌てて口を押さえる。普段体育館で大声を張り上げているので、静かに淡々と喋るのが苦手になってしまった。の方へ身をかがめた越野は人差し指を立てて続ける。

「少し考えろ。お前は見たことないから気楽に考えてるだろうけど、あいつは2年生の今の時点でも神奈川では5本の指に入るプレイヤーだ。実際予選では決勝で敗退してるのにベスト5に選ばれてる。来年になったら確実に神奈川で一番上手いプレイヤーになる。この理屈はわかるな? 怪我でもしない限り、絶対だ」

それは理屈としてはわかる。は頷いた。

「さっきも言ったけど、そういうヤツだから大学でもトップクラスのチームに入る。いいチームいい指導者の元でもっともっと成長する。高校、大学、と来てその次は何だと思う?」

スポーツのことはよくわからない。越野はさも当たり前のように言うが、にとって「大学」とは勉強をするところであって、運動するところではないのでは……と思えてしまう。大学の次? 普通はそのまま院に進むか、就職だよね? バスケットの指導者、とか?

がわかってない顔をしているので、越野は人差し指を突き付けて言う。

「日本代表だ」
「は?」
「県大会、全国大会、そこでトップに上り詰めたら国の精鋭ってことになるだろ」
「日本代表って、オリンピックとかそういう……?」
「要はそういうことだ。じゃあその次は?」
「まだあるの……
「当たり前だろ! 国際試合で活躍したらどこから声がかかると思う。海外のチームだ」

話がどんどん大きくなるので、は現実の話に思えなくなってきた。白波の賄い部屋でご飯うまいうまい言ってる人がオリンピックだの海外のチームだの……

「いいか、自分の仲間だから過大評価してるわけじゃない。なんならこの間の監督に聞いてみろ。オレと同じことを言う。仙道っていうのはそういう選手なんだよ。高校の部活で汗流して青春! いい思い出です! っていうレベルの人間じゃないんだ。クラブ活動が過去にならない人なんだよ」

越野はこうしてガミガミとうるさいが、決して見栄を張ったり嘘をついたりする人ではない。は体の表面が冷たくなっていることに気付いた。あの私の机でスヤスヤ居眠りしてる人が、そういう国を代表するアスリートとやらに育っていってしまうのか。

……そういう、この国にとっても大事な人材なんだ。オレたちみたいにいくらでも代わりがいるようなのとは違う。大事に育てて守っていかなきゃいけない選手なんだよ。もちろん本人も望んでバスケットやってる。言わないけど、そういう道が開けているということは自覚があるはずだ。お前や、白波や、そういうものが、これからあいつが進んでいく道の途中で『心残り』になってしまうことは、わかるだろ」

わかりたくなかったけれど、は小さく頷いた。

「ひとり暮らししんどそうだったから、つい連れてきたオレにも非はある。それは後悔してる。これからどんなところでプレイしていくのかわからないけど、結婚してるならともかく、いつでもそうやってひとり暮らしで点々とするのが普通になっていくのに、どこへ行っても『ああ白波のご飯が食べたいな』なんて思ってしまう、そんなのストレスでしかないじゃないか」

それも、わかる。仙道が白波を愛してくれることは嬉しいけれど、それは同時に彼をこの湘南の街に縛り付けることになる。仙道と一緒に白波が付いて回れるならともかく、白波はこの場所から動けない。も、動けない。仙道が思いを傾ければ傾けるほど、それらのものは足枷になっていく。

……高校を卒業する時、この街のことは全て置き去りにしていってほしいんだ。そこから先は新しい学校やチームのことだけ考えていればいいようにしてほしいんだよ。オレの家やそこの従業員たちがそれの障害になるのは嫌だ。……オレがあいつを遠ざけたい理由、わかったかよ」

または小さく頷く。何も越野はみみっちい反抗心で言っているわけではなかった。彼の理屈も、その思いも、稀有な能力を持つ選手をまっすぐ育てていかなければならないという大義も、よくわかる。

……お前も、白波から離れられないだろ? あいつがどこへ進学してもどこでプレイしてても、ここで生きていくのが夢なんだろ。じゃあ一緒に着いていきます、ずっとそばで支えますなんてこと、できないだろ? こういうこと言うと女はすぐ嫁は奴隷じゃないとか家政婦かよとかって話を持ち出して騒ぐけど、それとトップアスリートのパートナーは両立できないんだよ。だったらパートナーになんかならない方がいい。余計なストレスの元だ」

それも、わかる。どうしてもサポートが必要な存在なのだ。しかも替えの効かない無二の存在。

「この狭い世界で余裕のある時に先のことなんか何も考えずにくっついて、だけどいざその時が訪れたらどうするつもりだったんだよ。私の夢を優先しろ、いやオレの夢を優先しろ、そうやって言い争って喧嘩別れ、ふん、よくある話じゃないか。そこまで考えてなかったろ。いつまでも高校生が続くわけじゃねえんだぞ」

カクリと頭を落としたの目から、涙がこぼれる。考えていなかった。

夏祭りの夜、白波の裏口でギュッとハグをされて、以来もう一度ハグしてもらいたいと思うようになった。また手を繋いで遊びに行きたいと思うようになった。もしまた疲れたと思ったら、寄りかかってもらいたいと思い始めていた。そして白波でご飯を食べて、嬉しそうにご飯を頬張る彼を横で眺めていたかった。

それら全て、越野の言うように、現在陵南に通う高校生だから出来ることだ。

は白波から離れられない。白波の女将になることは一生をかけた夢と仕事だ。だけどそのために仙道が視線をそらすようなことがあってはならない。万が一にも。それだけは絶対だ。

……っておい、何泣いてんだよ!」
「夏祭り、浴衣で、ふたりで、楽しかった」
「ちょ、まじか、泣くなよ」

慌てた越野が肩を掴むと、はポロポロと泣きながらぼそぼそと呟いた。

「手を、繋いで、歩いて、嬉しくて、幸せだった」
……
「だけどそういうの、全部、ダメなこと、だったんだね」

囁くような、今にも消え入りそうな声だった。普段フロアや板場でニコニコ笑いながら張り上げているような元気な声ではなかった。越野も初めて聞く声で、狼狽えるあまり彼はを抱き寄せて頭を撫でた。

「ダメなこと、だったんだね――

新学期に入り、バスケット部は通常通り――ではなく、国体で部員数名と監督がちょくちょく不在になるので、残ったメンバーが自主的に練習しているというような日も多くなっていた。

とはいえ陵南高校はごくごく一般的な普通科の高校なので、不在になると言ってもそれは週末がほとんどで、国体神奈川代表チームに参加している監督と仙道と福田という部員も、平日は通常通り。今のところ自由参加の朝練と放課後の練習、その合間に授業、という日々だ。

その中で、何も知らない仙道は「白波のご飯食べたい」と言い出した。

練習が終わり、殆どの部員が帰り支度を終えて帰ってしまったあとのことだ。部室にはエアコンが入っているけれど、部員が全員入ると熱気で効きが悪い。人が減ってやっと少し涼しくなってきたけれど、仙道と越野のふたりはパンツにTシャツのままバタバタとうちわで扇いで涼んでいた。

「暑いんだけど、熱々の出汁ぶっかけてサラサラっといきたい。で、バタっと寝る」
……最近自分で飯炊いてんだろ」
「時間かかるんだよ。もうヘトヘトだし、炊けるの待ってる間に寝落ちする」

声も上げずにはらはらと泣いていたを思い出して、越野は居心地が悪い。思わず抱き寄せて頭を撫でたけれど、はぴくりとも動かずにただ涙を流していた。色んな意味で後悔は募る。

どうあってもあと1年半くらいしか、仙道はこの街にいないんだぞ。その時つらい思いをすると、思ったから――

……仙道お前さ、のこと好きなの?」
「えっ、なんだよいきなり」
「茶化すな。夏祭りの件は知ってる。夏休みの間にナベさんとよく遊んでたのも知ってる」

静まり返った部室の中にうちわのバタバタいう音だけが響いている。

「お前、自分がどういう選手なのか、わかってるだろ」
……インターハイには行かれなかったけどな」
「それが何だよ。国体終わったらスカウト殺到するぞ」

早ければ2年生の冬にでも進学先が決まる。そうしたら3年次は思う存分部活に精を出せる。そういう流れが待っているであろうことは本人もわかっている。なので越野の低い声には積極的に返事をしない。

「オレはあんな店どうでもいいけど、あいつは違うんだ。なんだか知らないけど女将になるんだって張り切ってて、家から一歩も出たくない引きこもりみたいに」
「なあ越野」
「えっ?」

穏やかな声で遮られた越野は丸めていた背を伸ばして顔を上げた。何だよ。

「お前はさ、何でもちゃんとやろうきっちりやろうっていう、そういうところ厳しいし、人にだけじゃなくて自分にも厳しいし、だから色々心配するあまりカッとなることも多いし、でもそのおかげで脱線することなくチームがまとまるってこともあるから、言いたいことはよくわかるよ。だからオレもお前の言うことは聞こうと思ってた」

なぜ越野が頑なに仙道が白波に近付くことを嫌がっていたのか、それは薄々わかっていたんだろう。それは仙道にとって「尊重したい主張」だったのだ。越野のことはよくわかっているから、彼の思うこともよくわかるから、だから1年生の秋頃から白波へ行きたいとは言わないようにしていた。

しかし、そんな仙道に転機が訪れる。

「だけどさ~、欲しい欲しいと思ってたって、手に入らないものは手に入らないんだよ」
…………インターハイのことか?」
「オレたち湘北に劣ってたと思うか?」
「おと……まさか! あんな、あいつらなんか」
「だけど、インターハイに行ったのは湘北と海南」

いつしか部員も全員いなくなり、扇ぐうちわの音すらなくなっていた。

「どれだけ欲しがったってそのために努力したってダメなものはダメ。オレたちは負けてあいつらは勝った。それが気に入らないって喚いたところで覆るわけでなし、物事ってそういうものなんだろうなと思ったら、手に入るものをわざわざ遠ざけてるのが嫌になったんだよ」

ポカンとした顔の越野に顔を向けると、仙道はニヤリと笑った。挑発的な笑みだった。

「いいんだよ、いつかダメになっても無理になっても。時間がないならなおさらだ」
「お前はそれでいいかもしれないけど――
「お前こそ、ちゃんが心配でしょうがないんだよな、ほんとは」

ウッと詰まって越野は俯いた。

……だって、そうだろ。あいついずれ女将になって経営者になるとかアホなこと抜かしてるけど、修行だなんだっつって勉強もろくにしないで接客の方ばっかり、事務方がどうなってるのかなんて見に行きもしないで、なのに白波の連中はそれをまったく疑問に思ってなくて、初代やうちのじいさまの頃とは事情が違うのに」

板場にも新人は入ってきていないけれど、事務方もそれは同様。現在事務方で中心になっているのは越野の母親だが、やっぱり彼女も従業員のひとりに過ぎず、経営責任者はの父親だ。の父親は実はの血筋ではない。母親の方がの人間。そして、大卒である。

「学歴がなきゃ社長になれないわけじゃない。板長だって大学で勉強してたのは飲食店の経営じゃない。だけどあの人は白波に入ると決めた時から板前修業と経営の勉強と、どっちも寝る間も惜しんでやってたってみんな言ってた。だからできてる。入婿が板長なんてっていう人もいたけど、だけど名実ともに白波の責任者はあの人なんだよ。はその下で料理運んで愛想よくしてるだけだ。あいつは舐めてる」

そして越野は掠れた声で、腹から絞り出すように、言った。

「それでしくじって店を潰してみろ。白波にいると越野は全員路頭に迷うんだ」

それがわかるから、越野を始めとする初代から見て孫世代は白波に入るのを避けるようになった。昔のように前に倣えで白波に入り、うっかりその時の社長がしくじって店を傾かせたら、ストッパーになるものが何もない。全員で働いていたら全員一斉に無職だ。

俯いていた越野の肩を仙道がポンポンと叩く。越野の不安はもっともだ。

「無責任なことは言いたくないけど、だけどちゃんがいなかったら、それはそれで店はなくなる」
……それもわかってるよ。にちゃんと考えてほしくて、オレがイライラしてるだけ」
「ちゃんと言ってみたらいいのに」
「言えるかそんなこと、今更。だったらお前が言えよ」
「いいよ」
「は!?」

勢いで言っただけの越野は顔を跳ね上げると甲高い声を上げた。仙道はまたニヤリと笑う。

「だから越野、その代わり、ちゃん、オレにちょうだい」