在り方の問題、または指先の恋

4

に男っ気がないことをからかいたがる白波の皆さんだが、8月が半ばを過ぎても毎日のように白波で働いているので、真剣に心配し始めた。いくらなんでも1日くらい友達遊ぶとかなんとかした方がいいんじゃないの。てかアルバイトとは言えこれだけ働いてて遊びにも行かないって貯金額すごそうだな。

実際、貯金額はすごい。経営者の娘でもアルバイトなので時給だが、毎日のように働き続けること5ヶ月、目的が小遣い稼ぎではないので使う機会もなく夏休み、ちょっとした海外旅行くらいなら今すぐ行かれる程度には溜まっている。しかし依然使う場所もなく、月々の携帯電話の支払いに充てられている。

「そろそろ夏祭りがあるじゃないか。行ってきたらいいのに」
「うーん、でもあれ夜がメインでしょ」
「あのねえ、根詰めて働けば身につくってものでもないんだよ。外を見るってことも大事」
「でも、行く人いないし」
「うちに若い子でもいれば一緒に行かせるんだけど……

仕事が趣味で仕事が生きがい、それを立派というのはだいぶ前時代的な価値観であろう。気持ちを傾けられる対象がひとつしかないのは、もはやリスクでしかない。そういう意味でも白波の小父さん小母さんたちはに少し遊んだら、と勧めている。

高卒で白波に就職し、板場の越野その3と結婚してファミリーの中に入ってしまった小母さんが言うように、現在を除くと、白波には若くて40代以上の従業員しかいないのである。つい2年前まで20代の男性を預かっていたが、修行が一段落したので、やはり割烹を営む実家に帰ってしまった。

基本的にはふた家族で切り盛りしているので既婚率も高いし、親子関係もいるし、若いもんだけでお祭行ってらっしゃい! と叩き出すこともできない。白波以外の世界を知ることもきっとプラスになるはずだと彼らは思うのだが、は黙々と修業を続けている。

そうして夏祭りの2日前の夜のこと。例のナベさんが休憩しているのところへやってきて、明後日みんなで夏祭りに行こうと言い出した。面食らってきょとんとしているだったが、ナベさんは続ける。

「毎年夏祭りの日って客足が落ちるだろ。座敷の予約も少ないし、途中で抜けてもいいぞって板長がさ」
「そう……だったっけ」
「浴衣持ってるか? ちょっと出かけてジャンクフード食べ歩きってのもたまにはいいだろ」

ナベさんがずいぶん気楽な調子なので、はつい行ってもいいかなという気になってきた。白波のみんなと一緒に夏祭りなんて、子供の時以来だ。このところ夏休みで賄いばかりの日々だし、わたあめとか食べるのもいいかもしれない。

「そういえば私浴衣持ってないな」
「明日調達してこいよ。可愛く帯結ぶのなんて得意な人いっぱいいるんだし」
「そ、そうだね」

言われてみると仕事着である着物を着る着方しか知らないは思わず頬が緩んだ。何しろ貯金はある。明日仕事の前にひとっ走り出かけて気に入った浴衣を買うというのは悪くない。白波の従業員用の着物を手がけている呉服店があるから、そこでいいだろう。

白波仕様に慣れてしまっているので、ド派手な浴衣を欲しいとは思わなかった。だけど毎日着ている着物は落ち着いた薄紅色なので、はっきりした色合いの柄物を着てみたいと思った。

「もうは着慣れてるから、きっと誰よりも所作がきれいだぞ」

ナベさんの気遣いなのだとしても、嬉しかった。ひとりで髪を纏めて化粧をして着物も着る、そして歩いても座っても何をしてもその所作については毎日実践訓練中だ。それは彼の言うように同世代の女の子の中では上手にこなせていることになるはずだ。誰に褒められなくとも、自信になる。

その気になったは翌日、呉服店の開店とともに飛び込み、明日浴衣を着たいのだと言ってあれこれ選び始めた。金ならあるかんね! 可愛い浴衣見繕ってくださいな!

着物を浴衣に着替えて化粧と髪を直し、帯結びの得意な筋の小母さんに可愛く結んでもらったは、裏口の近くでみんなを待っていた。何を食べようかと考えただけでも頬が緩む。わたあめ、かき氷、あんず飴りんご飴、大判焼き、甘栗、甘いものばっかりじゃん!

それというのも、は昨日買ってきた浴衣があんまり可愛いので珍しくテンションが上がっているのだ。白地に紺と朱色の梅柄である。ざっくりした輪郭の梅はまさにレトロ柄で、柄に合わせた赤みの強い朱色の帯も鮮やか。全部合わせて4万以上かかったが、金ならあるのである。

すると、板場の方からナベさんが仕事着のままふらりと出てきた。

「おー、可愛い浴衣じゃねえかあ」
「いいでしょ、ちょっとレトロで。和服を買うって、なんかすごく気分いい!」
「そうかそうか、着物は長く着られるからいいよな。それだっておばあちゃんになってもきっと可愛いぞ」

確かに白地に紺と朱の梅ならおばあちゃんでも大変可愛らしいだろう。が、はナベさんが着替えてくる様子がないので、ひょいと首を傾げた。ナベさんは行かないの?

「みんなはまだ?」
「それがなあ、みんなはお仕事が忙しいんだよ」
「は?」
「だからは、ちょっと遊んでおいで。彼と一緒に」

スタスタと裏口に向かったナベさんがドアに手をかけて引くと、夏の夜のぼんやりとした明かりの中に、仙道が佇んでいた。Tシャツにジーンズという、まさに普段着な彼は、ちょっと申し訳なさそうな苦笑いで会釈をした。

一方はナベさんにしてやられたことに気付いて愕然としていた。ナベさんの言う「夏祭りの日は客足が落ちる」というのも聞いた覚えがなかったし、去年の記憶が曖昧だったのでまあいいかとスルーしてしまったが、浴衣の件もつまり、ナベさんの計画のうちだったわけだ。

そしてナベさんと言えば仙道と大の仲良し、である。浴衣もまんまと乗せられて買ってしまったし、あれほどウキウキして待っていたかと思うと、顔から火が出そうだ。もういっそ米を炊く竈に飛び込んでしまいたい。私、祭ごときではしゃぎまくってる子供みたいじゃん。

「22時までには必ずここに送り届けます」
「あーあー、そんなこと気にせんでいいから遊んでおいで。ああでもまた白飯食いたいなら帰っておいで」
「それじゃあ腹に余裕持たせて帰ってきます」

またふたりでホンワカしている。策にはまってしまったことでがっくり来ているの肩をそっと押し出して、ナベさんは優しく声をかける。

「今日はほら、ヒロもいないし、誰も文句言ったりしないからたっぷり遊んでおいで」
「越野どこ行ってるんですか」
「丹沢の方だったかな。中学の時の友達とキャンプらしいぞ。だから、大丈夫」

確かにそれなら困ることはないか……は諦め、ナベさんに押されるまま裏口を出た。

「じゃあ……行ってきます」
「あいよ。たまにはのんびりしておいで」

ナベさんに見送られて、ふたりはそのまま白波の外へ出た。白波のぐるりは仙道の身長よりも高い渋墨塗りにした黒い板塀で囲まれているので、外へ出てしまうと中の様子はほとんどわからない。白波の中は常に人で溢れかえっているが、裏口を出るとそこはただの住宅街。しん、と静まり返っている。

……この間、ナベさんから電話があってさ」
……帰省、しなかったんですか」
「帰省ったって、片道2時間とか3時間とかそのくらいの距離だしね」

するりと自分の話に切り替わってしまったので、仙道は咳払いをして言葉を切る。

「越野は泊りがけで留守の予定だから、白波で夏祭り行かないかって言われてさ」
「先輩も騙されたんですか」
……いや、昨日ネタばらしされて。でも、それでもよかったから」

ぼんやりと見上げているに向かって、仙道は手を差し出した。

「たまには遊びに行かない?」
…………わたあめが食べたいです」
「いいね、わたあめ~! じゃ行こっか」

自分は自分の意志で遊びもせずに白波で修業をするのだと頑なに考えていたには、たまには遊んでもいいか! と素直に言葉に出来るだけの余裕がなかった。けれど、わたあめ食べたいという精一杯の言葉を仙道はひょいと拾い上げ、ついでにの手も拾い上げて歩き出した。

「屋台はいいよねー。オレはイカ焼きとじゃがバタ食べたい」
「あとかき氷とあんず飴とタピオカジュースとトルコアイスと」
「全部甘い! てか予算大丈夫?」
……私月に10万以上稼いでるので」
「まじか!!! あっでもそうだよな、うわオレの仕送りより多い!」
「奢ってあげましょうか」

実にゆっくりと、今は何をしても越野に見つからないという意識が浸透してきて、にしては珍しく仙道に向かってニターっと笑いかけた。そりゃあスポーツ特待で進学の高校生のひとり暮らし、余計な金は持たせまい。仙道はそれもするりと受け止めて笑う。

「あはは、ほんとにー? 女将、お願いします」
「先輩、顔がマジです」
「実は非常に予算が厳しいんです女将」
「高校卒業してもご贔屓にしてくれるならごちそうします」
「いやそんなの当たり前でしょ。しますします。白波のご飯は世界一」

ニタリのはつい声を上げて笑った。仙道も笑っている。確か彼が越野に連れられて白波にやって来てひと月ばかりはこんな風に笑いあっていたような気がする。けれど、いつしかは越野が面倒くさいあまり無愛想を貫くようになって――

「よーし、じゃあおいしいもん食べに行こー!」
「おー!」
「女将、祭は混んでて危ないので手は離しちゃだめですよ」
「はーい」
「良いお返事です! 白波に戻ってご飯食べるまでがお祭です!」
「せんぱーい、バナナはおやつに入りますかー」
「バナナはチョコバナナ買って食って下さい!」

だけどこんな風にふざけて笑い合ってる方が、よっぽど気楽だった。楽しかった。嬉しかった。

祭会場は仙道の言うように大変混雑していて、芋洗いの方がまだ余裕があるのではというくらいの満員電車状態。ひとつ年上の先輩と手を繋いで夏祭りなんていいんだろうか……と緊張していただったが、それどころではなかった。本当に手を離したら押し潰されそうだ。

そんな混雑なのであちこちで浴衣の着崩れが大発生、仙道が守ってくれたのでは何とか事なきを得たけれど、あやうく5000円もした帯締めを持っていかれるところだった。ふたりは人の波を外れて祭会場の端っこで縁石に腰掛け、疲れた表情でぼんやりと人の波を見ていた。

「この浴衣……めっちゃ気に入って買ったんですけど、もう二度と祭には着てきません。安物買います」
……それがいいね。裾、大変なことになってるし」
「裾……? あー!!!」

は悲鳴を上げて両手で顔を覆った。買ったばかりの浴衣の裾にこすったような泥汚れがついていた。すれ違った人の靴にこすられたらしい。これは明日にも呉服店へ持って行って泣きつくしかない。

「ううう……ちゃんと落ちるかな……
「大丈夫大丈夫、きっときれいになるよ」
「わたあめも食べられないし~」
「あのさ、ちゃんて花火どうしても近くで見たい人?」
「いえ、そんなこともないですけど……

祭会場ではなく、少し離れた海岸でささやかな花火が上がるのだが、そちらはそちらで明るいうちから場所取りで大変な騒ぎになっている。小さい頃に連れて行ってもらったことがあるが、ゆったりと花火を見上げていた記憶はない。酔っ払いも多い。

「花火が始まる頃になると空くだろうから、そしたら食べない? 花火も見えないことはないし」

何が何でも花火は遮るもののない場所でなきゃ許さないんだから! ……なんていうタイプではない。はうんうんと頷いて、つまんでいた浴衣の裾を払った。

「よし、じゃあそれまでここでお喋りです女将」
「何喋るんですか」
「なんでもいいですよ女将」
「じゃあ越野宏明物語中学生編」
「えっ、ちょ、なにそれくわしく」

そんなネタでお喋りをしていたら、仙道の言うように花火の時間になると面白いほど祭客が減り始め、どの屋台も並ばずに買えるようになってきた。ふたりは改めて出陣、それぞれ目的の祭グルメを楽しみつつ、もうそんなに混雑はしていなかったけれど、ずっと手を繋いで歩いていた。

食べ歩きの最中に遠くで花火が上がると、立ち止まって眺めた。距離もあるし障害物もあるしでところどころ欠けた花火だったけれど、それも手を繋いだまま眺めていた。

花火も終わり、あらかた目的のものを食べ終わってしまうと、特にやることも残っていない。がごちそうしてくれると言うので仙道はたくさん食べていたけれど、やっぱりシメに白波のご飯が食べたいという。まだ閉店前だし、何しろ越野はいないし、はそのまま連れて帰った。

白波は座敷が全て終わったとのことで、賄い部屋は遅い食事を取る板さんたちやスタッフでいっぱいになっていた。ちらりと覗くと、フロアの方も3組ほどカウンター客が残っているだけ。この時間帯からはバーの方が混んでいる。賄い部屋に顔を出した仙道はやっぱり越野がいないので大歓迎された。

今日のことを仕組んだのはナベさんだし、出かける前にご飯が食べたいと言っていたし、彼は仙道用におかず盛りと味噌汁を用意しておいてくれた。仙道はそれを見て大感激、祭でたらふく食べたと言うのに、うまいうまいと連呼しながら全部平らげた。

「さすがに腹が重い」
「でしょうね」
「ほんとにここのシャリが好きなんだねえ」

元寿司職人の板さんが目を細めて微笑んでいる。それを聞いた仙道は身を乗り出して頷く。

「そうなんですよ。去年ひとり暮らしを始めてすぐにここでご飯を食べさせてもらって、お櫃に入ったご飯がすごく美味しかったから、自分でお櫃を買って真似してみたんです。そしたら、別に大して美味しくなかったんです。熟練の釜炊きと炊飯器じゃこんなに違うのかと驚きました」

しかしアパートに竈を作るわけにも行かないし、高価な炊飯器を買うのも現実的ではないし、だったら白波のご飯を食べたい! ということらしい。そんな話を聞いていた従業員たちは、当然の結論として、と同じ発想に行き着いた。週に1日くらいでバイトすればいいんじゃないの?

「正直オレもそれは考えました。てか去年の夏頃、板長さんにもそう言われて」
「だよねえ。そしたら少なくともバイトの日は賄いが食べられるじゃない」
「だけどやっぱり越野に怒られて」
「ヒロちゃんは厳しいからなあ。前にお客さんと付き合ってた子がいたんだけど、それもすごく怒ってたし」

しかもそれは越野がまだ小学生の頃の話だ。湘南の海の近くで働きたいと東京から就職してきた女性がバーによくやって来るお客様と恋愛関係になり、結果としてお客様はバーで我が物顔で振る舞うようになってしまった。それに困っていた親たちを見て彼はずいぶん憤慨していた。生まれつき厳格なのだろう。

「まあ、うちのバスケ部といえば厳しいことでも有名だから、そんな余裕もないですよね」

そのキャプテンがしょっちゅう1年生の教室で昼寝をしているということは、一応言わないでおいてやる。

だったら土鍋でおいしくご飯を炊く方法を教えてやるから、練習してみな! という板さんたちに、仙道は食い気味で話を聞いている。聞けばアパートはIHや電気コンロではなく、一口ながらガスらしいので、微妙な火加減の調節もしやすい。ついでに米の洗い方やら浸水やら、土鍋ご飯講座が始まっている。

それを黙って見ていたは、板さんたちが楽しそうにああでもないこうでもないと話しているので、そういえばもう何年も新人が入ってきてないんだな、と思い出した。強いて言えば自分が新人だが、それは接客の方であり、板場は預かり修行以外では久しく新人がいない状態が続いている。

それは当然手が足りているからであり、預かり修行という状態でなら新人育成にも協力しているが、どちらにせよ将来が女将になる頃まで残れる人材は確保できていない。それにはこの白波がどう頑張ってもと越野以外の者の所有物にはならないという同族会社の限界もある。

実家があるならそっちに戻った方がいい。いずれ自分のものになる。もし自分で店を出すなら、白波をステップに、もっと名の知れた、何なら暖簾分けをしてくれるようなところへ移るべきだ。

初代たちから見て孫世代に当たるたちの中で、白波で働きたいと考えているのはひとりだ。他に白波で働きたいと考える人はいないらしい。こんな風にと越野で溢れかえっている白波も、いつか遠くない将来にはなくなってしまうのかと思うとは寂しくなってきた。

自分の大好きな白波がやがて消えていってしまうような気がしたから。

土鍋ご飯講座で盛り上がったのち、そろそろフロアの方の閉店時間になるというので、仙道はに送ってもらって裏口から外へ出た。越野のいない時がチャンスなので、明日の朝イチにナベさんと土鍋を買いに行く約束までしていた彼は上機嫌だ。

「今日はありがとう。シメにご飯も食べられたし、ほんとに楽しかった」
「そんな、元々はナベさんが企んだことなんだし、こっちこそありがとうございました」

夏祭りの件でいえば仙道は巻き込まれただけなので、はペコペコと頭を下げた。賄いご飯と土鍋ご飯講座はそのお礼と言ってもいいだろう。こんなに喜んでくれるんだから、ご飯くらいいいじゃん、ヒロもほんとに固いなあと考えたは、つい口を滑らせた。

「またご飯食べに来て下さいね」
「えっ、来ていいの」
「あっ、えーとヒロの目を盗んでナベさんにアポ取って」

慌てふためくに仙道はカラカラと笑う。

「じゃあまたふたりで遊びに行って、それからご飯食べに来ようかな」
「え? ああ、そうですね」
「それでいい?」
「はあ、そうですね」

ニコニコしている仙道に、はまたポカンとしていた。なんでその前に私と遊ぶことがセットになってるんだろうと思うが、どうにも考えがまとまらない。だけどそれでもいいなという気にもなっている。祭でなくても、どこかに出かけて、楽しく遊んで、帰ってきて白波でご飯を食べる。

今日は私も楽しかった。だからきっとまたそういう日を繰り返しても、楽しい気がする。

「じゃ、約束!」

そう言いながら差し出してきた仙道の手を、は何も考えずに握り返した。すると、いつかのようにそのまま引き寄せられてギュッとハグされてしまった。だいぶ身長差があるので抱き締めるというよりはハグだったけれど、は驚いて息を止めた。

「ほんとにありがとう。楽しかった。オレ、白波ほんと好き」

そう言うとを解放し、いつものようにゆったりと笑顔を作る。

「じゃあちゃん、またね」

仙道はそのまま振り返って出ていく。はそれを呆然と見送りながら、目を剥いていた。

今の、何!?

呼吸が戻る。息を止めていたせいか、苦しい。そして、唐突に強い力で殴られたのかと思うほどの衝撃が胸に来た。きっちり締め上げている帯の下で、の心臓は破裂しそうなほどに大暴れしている。

確かに驚いたけど、びっくりしたけど、だけど、これは、もしかして――

自分で言葉にする前にはギュッと目を閉じた。

どうしてもそれは「ダメなこと」なのだという気がして。

だが数日後、お盆休みが明けたところで夏祭りの件はあっさりと越野にバレた。