天つ風還る

あれは中学3年生の3学期だった。みんな受験で忙しいと言うのに、中学生の総まとめとして、「自分史」を書こうという課題が出た。原稿用紙5枚以上書けという先生に私たちは遠慮なくブーイングを浴びせた。受験は目の前なのになんで今そんなことを。

なので当然、学期末あたりにはきっちり原稿用紙5枚の、「成長記録」が回収されることになる。

これを思いついたのは寿里だった。自分史という言葉に囚われると物語のように書かなきゃいけない気がしてしまうし、そうするとどこかかっこつけた書き方をしたくなってくる。でも、そんなことをしてる暇はない。だから、データを書き連ねればいいんじゃないか。

中には、自分の歴史はデータなんかではない、意味があり心が通った物語なのだと憤慨し、受験勉強のさなかに原稿用紙数十枚の自分史を書いてきた子もいたけれど、殆どの生徒がデータ戦法で行くことを選んだ。母親のお腹の中にいる時から始まるので、生誕までの記録だけで原稿用紙2枚は稼げる。

私も当然その方法を取り、読み直したところで「これは自分史というより履歴書だな」と笑った。

それに、一体生まれて15年しか経ってない私たちに、どんな「歴史」があるというんだ。大作を書き記した同級生は満足げだったが、一体あの原稿用紙の束の中には、どんなドラマがあったと言うんだろう。同じ小学校出身の子が「普通の子だったけど」と首を傾げていた。

中学3年生の私はその「自分史」を、実に下らないものだと思った。私たちの人生はまだ道半ばで、振り返るほどのこともなく、おそらくこれから先の方がまとめるに値する日々なのではないか。そう思ったからだ。それに、正直言って担任にはデータで充分だ。自分の人生を語りたい相手ではない。

――とまあ、そんな風に反抗的なことを考えていたわけなのだが、それから3年、改めて「自分史」というものを考えてみたくなったのは、やはり数週間後に入籍を控えているからだろうか。

私、清田天那と、遠藤寿里は、高校を卒業した翌4月に結婚する。

婚姻届の提出が4月1日では嘘をついたみたいになるから、と4月2日を選んだが、ともあれ私たちは夫婦になる。18で結婚などあまり身近な話ではないが、妊娠がきっかけというわけでもない。子供は欲しいと思っているけれど、それはまだ先の話。

私と寿里の結婚は特殊な例で、また私たちの「歴史」もちょっと特殊なのだということは自覚がある。

しかしそれを殊更「私たちスペシャルだから」と触れ回るつもりはないし、逆に「悪い!?」とヒステリーを起こすつもりもない。私たちの決断はちょっと稀な例だろうなという認識がある程度だ。

それに、私たちは結婚するが、同時に大学へも進学する。今住んでいる自宅も出ない。同じ大学ではないし、アルバイトもしたいし、友達付き合いもやめるつもりはない。だから結婚すると言っても、それは本当に「入籍する」と言うだけの話だ。

ただそれでも、これまで別々だった部屋をひとつにし、同じベッドで眠ることを公にするという変化はある。私たちがとっくに体の関係を持っていることは家族全員気付いていたろうし、けれど私たちがその他の点で問題行動がなかったので、結婚も認めてもらえたのではと思う。

寿里とふたり、結婚の意志があると親に報告したのは去年の夏だった。受験シーズン到来を前に寿里とは何度も協議を重ね、進路を考えるのと同じように、自分たちの、ふたりの将来についても長い時間をかけて話し合ってきた。その結論がこのタイミングでの結婚だったのだ。

誰か他人に話せば「入籍なんていつでも出来るのだから焦る必要はない」と諭されるのは目に見えていたけれど、それに思い至らないほど短絡的な話ではないし、今結婚しないとダメなの、と焦っているわけでもない。私たちは、この高校卒業をちょうどいい人生の節目と考えた。

寿里は一級建築士、私は薬剤師を目指している。

それは、ふたりの生家である現在の住まいから出ることなく結婚をし、家庭を持ち生きていかれるようにするための目標でもある。伯父である頼朝がそもそも一級建築士で、寿里は同じ資格を取得した上で伯父の下、つまり清田工務店で働くことを選んだ。私の薬剤師という目標も同じだ。薬局やドラッグストアはどこにでもあるし、当分はなくならない。

それが抗いようのないアクシデントなどで頓挫しないとは言い切れないけれど、私たちは自分たちの将来に結論を出していた。新しいことに挑戦するのに年齢は関係ない、君たちの未来には無限の可能性があるのだ、などという親世代の陶酔しきった演説に惑わされて時間を無駄には出来ない。職業を確実にし、収入を得られる手段を身に着け、そして家庭を持つ。私と寿里の計画はすべてそこに行き着く。

余計に結婚のタイミングなどはいつでもいいように思うかもしれない。何なら就職のタイミングでもいいじゃないかと言う人もいるだろう。だが、私と寿里の結論は「大学生から社会人のタイミングより、高校生から大学生のタイミングの方が余裕があるはずだ」だった。

実際、まだ高校生の私たちには各種手続き、変更届などが圧倒的に少ない。住所も変わらないので、ほぼ現状のまま結婚できる。今入籍してしまえば後が楽なんじゃないだろうか。そういうことも含め、どうせ結婚するのだから、さっさとしてしまおうか。そういう意味もある。

また、18なんかで結婚をして、いつか相手に飽きたらどうするつもりなんだという1番突っ込まれるであろう点においては、大きなお世話としか言いようがない。私たちが出会ったのは2歳、以来ひと時も心変わりすることなく愛し合ってきた。この選択は16年の積み重ねの結果でもある。

さらに言えば、ごくごく身近な人にやはり18歳同士で結婚した夫婦がいる。子供をふたり設け、離婚もせず、至って平穏な生活をしている。早い結婚イコール破綻が確定というのは根拠に乏しい。

それをよく知る親たちは、報告を受けると揃って「そう来たか」と笑った。

ちなみに親とは言うが、それは私の父と母、そして寿里の父親の3人を意味する。

3人共反対はしなかった。私と寿里の何ヶ月にも及ぶ協議の結果が「どうせ結婚するのは確定なんだし、1番手間が少なく余裕のある時期に済ませておきたい」だったからだ。夢見がちに手を繋いで運命なのとか言い出せば馬鹿にされて終わりだっただろうが、そこはちゃんと考えた上での結論だった。

ただあまりに一般的でない決断だろうから、やはりここは家族全員に相談しようと親たちが言い出したのも無理はない。この場合の「家族全員」というのは、私の祖父母、伯父夫婦、もうひとり伯父、そして私の兄ということとして、ここは話を進める。

厳密に言えばあと4人家族がいるが、全員年下なのでそこは一旦除外しておく。

さておきその「家族全員」に私たちの意志が伝わったわけだが、やはり反対は出なかった。それをこの家で1番理屈っぽい伯父・頼朝は「反対する理由が見当たらない」とした。だから私たちも決断するに至ったのだし、もう大抵のことでは驚かないらしい祖父母はひ孫が見られるかもと笑っていた。

ただしこの頼朝は昔からこの家では「言いにくいことを言う担当」なので、家族全員それぞれが反対する理由を見つけられないでいるところ、身を乗り出して寿里をひたと見つめ、

「いずれ例えば子供が出来ても、もしお前がアマナや子供をひどく悲しませたり、辛い目に合わせたり、または離婚するようなことがあれば、その責めは全部ひとりで背負い、うちで働いていれば辞めてもらうし、体ひとつで出ていってもらう。それでもいいなら」

そう言い渡した。寿里はしっかりと頷き、それに従いますと言った。

そういう経緯だったわけだが、実はこれを号泣して喜んだ人がひとりいる。

誰であろう、寿里の父親、寿一である。

この家では彼は遠藤寿一という名を省略して「エンジュ」と呼ばれていて、私も幼い頃は彼のことをそう呼んでいた。今は本人に呼びかける時はパパと呼んでいる。実際の父親の方はお父さんと呼んでいるので、一応区別はついている。

パパ、エンジュは本来的には同性愛者なのだが、ひょんなことから寿里を授かり、彼をひとりで育てていくために親友である私の両親を頼ったところ、祖父の一存でこの家に暮らすこととなった。

それだけでなく、エンジュは私の両親をどちらも大層好いており、何のためらいもなく「世界で一番愛してるのは寿里、その次が信長と」と公言するくらいなので、我が家の中に限っては彼は私の父のふたり目の嫁であり、私の母のふたりめの夫でもあった。

その彼が私たちの結婚をそれだけ喜ぶのには理由がある。

寿里が、清田寿里になるのだ。

寿一と寿里親子はいわば同居人でしかなく、厳密には家族ではなかった。だが清田家の人々は寿里を私たち清田の子供と別け隔てなく可愛がってくれたし、私と寿里は小学校高学年くらいになってやっと「細かいことを言えば他人」なのだと自覚したほどだ。

エンジュの方にどこか肩身の狭い思いがあったとか、そういうことではない。ただ彼は、この結婚によって本当に自分が清田と繋がりができるということが泣くほど嬉しかったらしいのだ。この世を守る法のもとでは実現し得ない私の両親との「結婚」が現実になったような気がしたんだろう。

そして寿里が本当に清田の人間になるということが感慨深かったそうだ。

一方、このことで唯一ネガティブな発言をしたのは、私の兄カズサだった。

まあそれも反対とかそういうことじゃない。私の2歳年上で、幼い彼を走って追いかけ回し続けた祖母に言わせれば「父親に輪をかけたパープリン」らしい兄はひとりだけ顔をしかめ、「早くね!?」と言った。彼にとって結婚や子供や、そういう「家庭生活」はとても遠い話だったらしい。

兄がアホのように聞こえる話だが、個人的には兄こそが普通なのだと思う。

だから、私たちはこの結婚をごくごく親しい関係の人にしか報告していない。それに、私たちは2歳からずっと一緒、高校は分かれたけれどそれだけで、お互いより親しい友人はいなかった。寿里に至っては同じ高校から同じ大学へ進学する親しい人がいないとかで、彼の同級生たちは誰もこのことを知らないのだとか。知らなくても問題はない。入籍するだけなので。

結婚式はやらない。私たちは働いていないからだ。子供はまだ作らない。やっぱりまだ働いていないから。それらは学業を修め、働き、収入を得るようになってから改めてと考えている。だから指輪もしない。私たちは相手を縛りたくて結婚するわけじゃない。

そう考えていると母に伝えたところ、「そんなところお兄ちゃんに似なくていいのに」と呆れた顔をしていた。彼女の言うお兄ちゃんとは頼朝のことだ。石頭だと言いたいらしい。

だが仕方ない、私は頼朝の姪なので、似るところもあろう。彼だけではない、私は父にも母にも、祖父母にも、もうひとりの伯父・尊にも似たところがあるだろうし、そういうものの集合体がつまり清田天那という人間であり、私自身だからだ。

人は突然現れ出たりしない。父親と母親の存在あって初めて生まれてくるものだ。その父にも母にもまた父と母がいて、それを遡りだすときりがないけれど、要するに、15歳の私には空々しい課題でしかなかった「自分史」とは、そういうことなのではないだろうかと思い始めたのだ。

私が中学3年生までの間にどんな成績を収めただとか、スポーツで活躍したかだとか、それを経て何を学び何を今後の課題としたか、担任が書かせたかったのはおそらくそんなところだろう。学校で学んだことは君たちを一体どれだけ成長させましたか、それを振り返らせようとしたかもしれない。

だが、18歳になり、結婚という節目を目の前に迎えた私は、私を取り巻く家族の物語こそ自分の歴史、現在の私を形作るものなのではないかと思い始めた。もちろん伴侶となる寿里もそうだ。パープリンかもしれないが、兄だって欠かすことの出来ない存在であることは間違いない。

もっと言えば、清田家に絶えることのない飼い犬たちだって同じことだ。冗談でも何でもなく、この家に犬がいなかったら、私は生まれることはなかった。

例えば、私たちの幼馴染に、カイトというのがいる。前述の18歳同士で結婚した小山田豪と桃香夫婦の長男だ。私たちより10歳年上で、それだけ離れているので仲良し友達という関係ではなかったけれど、カイトは両親とともにしょっちゅう清田家に出入りしていたので、親戚同然。

カイトもまた祖母に言わせると「アンポンタン」なのだそうで、彼は高校を卒業後、進学も就職もせずにアルバイト生活になり、金を貯めて突然海外へ旅立った。本物の自分を見つけたいという書き置きが残っていたそうだ。「あのバカ」と頭を抱えるカイトの父親に、我が家は全員大爆笑していた。

聞けば昔、海外を放浪していたスポーツ選手がそれを「自分探しの旅」と呼んだとかで、中高と同じ競技をやっていたカイトはそれをどこかで目にしたのかもしれない。都合3ヶ月ほど行方不明だったカイトだったが、「日本のトイレじゃないと無理」と言って帰ってきた。我が家はまた大爆笑。

カイトの母親桃香は大変なきれい好きで、家事はほとんどやらないそうだが、家の中を清潔に保つことだけには異様な執着を見せる人なので、そんな家で育ったカイトが都市化されていない海外のトイレや風呂に耐えられるはずがなかったのだ。彼は結局うちの工務店に就職した。

私はそれも、人ひとりを形作る「歴史」なのではないか……と考えている。

カイトをバカにするわけじゃないが、自分は自分の中にしか存在しないと思う。どこかその辺に転がっているわけでもないと思う。だから私は、それを自分の節目の時に見つめ直したいと思ったのだ。

私の父と母、祖父と祖母、伯父と伯母、伯父、寿里の父、彼らがどう生きてきたか、それは私とは切り離して考えられない。特に私は母が自宅出産を選んだので、この世に生まれ落ちた時からこの家の子なのである。この家には私という人間の礎が全て詰まっている。

そんなことをちらりと母に漏らしたら、まだ私が幼い頃に、祖母はそれを「家族の歴史」だとして、祖父と結婚に至るまでを母とパパに語って聞かせてくれたという。そしてそれはいつか、私や兄にも語って聞かせたいと思ってきたという。

「口伝えだから、間違ってたり思い込みで補正されちゃってる部分もあると思うけど、そうだね、いい機会なのかもしれない。アマナ、私の後を継いでみる気はある? 」

そう言って、現在清田家の中心人物となっている母はニヤリと笑った。

清田工務店の現在の社長は伯父の頼朝だ。祖父はその任を降り、たまに現場には出ているが、現場のトップである通称「親方」はカイトの父・豪が引き継いでいる。これをおそらく次世代の我々、つまり寿里が頼朝の後を、カイトが豪の後を継いでいくことになるのだろう。

それとは別に、家としての清田のトップは、私の母・だ。

彼女は家の中に関わること全ての責任者であり、またリーダーでもあり、それは祖母由香里から引き継いだものだ。母はそれを継ぐつもりがあるのかと言っている。正直、そんな覚悟を持って話をしていたわけじゃない。けれど、私にしか出来ない役目なのでは、と思う。

寿里とふたり、この家が家族の暮らす健やかな場所であるよう守っていきたい。

……カズサはこの家を出たいと思ってるかもしれないし」

そう、兄はごく普通の人なのだ。父と同じバスケット人生の人だが、父とは違ってこの家にはあまり興味がない。現在大学でバスケットをやっていて、目標はもちろんプロ選手。父と同じチームに入りたいのかと思いきや、夢はあくまでも海外のチームだという。そしてアイドルかモデルと結婚し、東京で暮らしたいとヘラヘラ笑いながらよく言っている。

これを母は「ちょっと寂しいけどね」と肩を落とすが、兄の方が一般的なんだと思う。

しかしそれも寿里に言わせれば、もし夢が叶わなかったらこの家に帰ってくるだろうし、カズサが気楽に帰ってこられるようにしておきたい――だそうで、寿里は清田の血を引く兄より清田の人間らしい。だから私たちがこの家に残るのは、適材適所でもある。

寿里は言う。

オレはきっと、どうしてもアマナと同い年に生まれてこの家に来たかったんだと思う。だからあの母の元に生まれて、父のところに移って、やっと清田家に来たんだと思う。みんなよく言うだろ、初めてこの家に来た時のオレが、異様なほど自然に馴染んで泣きもしなかったって。

泣くはずないよ、オレが望んで清田家に来たんだと思うから。

蒸発していた寿里の母親が見つかったのは、約3年前、私たちが自分史の課題を終えて中学を卒業した年の5月のことだった。内縁関係にあった反社会的勢力に属する男性と一緒に違法薬物を使用した罪で逮捕された。逮捕された時、彼女は中部地方にいて、本名も名乗っていなかった。

寿里は時間をかけて考えた末に拘置所へ面会に出向いた。一応エンジュパパも同行して、なおかつ清田家が何かと言うと世話になる頼朝の後輩だという弁護士にも同行を頼んだ。

寿里の母親は「今更親子って言ってもねえ……」と苦笑いだったという。寿里もそれには同感で、ただ、堕胎でもおかしくない状況だったのに産んでくれたことは感謝します、と頭を下げてきたという。そして帰宅するなり母に「でもオレの母親はどうしてもだなあ」と言って泣かせていた。

私は拘置所での話を寿里の腕の中で聞きながら、思った。もし彼の母親が蒸発せずに寿里をひとりで育てていたら、私と出会うことはなかった。私は寿里という存在を知ることもなかった。そんな恐ろしいことは考えたくない。だから、私も感謝をしてしまった。寿里を見捨ててくれてありがとう、と。

このように、私の「自分史」では誰かの不幸が誰かの幸いとなることもあるだろう。迂闊に語ればそしりは免れないようなこともあろう。間違いも、失敗も、ずる賢さも、時には悪意もあるだろう。しかしそれも全て私を作る歴史の欠片だ。

私は両親に馴れ初めから話を聞きたいと言ってみた。やはりここから始めるべきだ。

「前に話さなかったっけ。まあでもざっくりとした話だったかなあ」
「出会いって言ったって、だからそれはオレが海でユキの散歩してたら」
「ちょっと、それ2度目でしょ! 最初は違うじゃん!」
……あっ、そうか! だから声かけたんだもんな」
「貴様、忘れてたな……
「え、いや、ちょ、さん顔怖い」

父と母の出会いは高校1年生の頃まで遡る。焼け焦げそうなほど暑い夏の日だった。

「お盆休みで家がうるさくて、出かけたんだよな、なんのあてもなく」
「そこで桜木に会ったんだよね」
「そうそう、よく覚えてんな~」
……あんたが忘れ過ぎなんじゃないの」

父は騒がしいこの家を持て余して街に繰り出した。母は淡い緑と黄色のグラデーションのロングワンピースを着て買い物に来ていた。それ以前から、母は父のことを知っていた。友達に誘われて中学時代の試合を見たことがあった。

「なんだよけっこう可愛いじゃん、しかもいい子だなーって思ったんだよな~」
「え」
「いや嘘じゃ……ってなに赤くなってんだよ、おいやめろ照れる!」

私の「歴史」はここから始めよう。祖父母にも、パパにも、伯父たちにも話を聞こう。そうして私を作る世界を見つめ直して、いつか自分の子供にも同じように話せるようになりたいと思う。私と寿里の全ても、聞いてほしい。

私はふたりの赤い顔を眺めながら、不意に頬に潮風を感じたような気がして背を震わせた。

いつもそこにあったのは、真っ青な空、打ち寄せる波、浜を渡る風――

さあ、話を始めよう。

私の物語を、始めよう。

END

Thank you from the bottom of my heart. LOLV!